オウム事件の原点 信者は32年前に出版された“あの本”にみんな騙された
このままでは駄目になる
「秘密の開発法」には、こうもある。
〈私が修行生活に入ったのは、今からちょうど8年前のことであった。それまではごく普通の生活をしていたといえる。鍼灸(しんきゅう)師を職業としていた。わたしが鍼灸師となったのは、長兄がそうだったからにすぎない。自分ではあまり考えることなく、資格を取得して開業していたというわけである。
腕はいい方だった――と私は思っている。毎日毎日、多くの人がやってきて、息をつく間もないほどだった。中には遠く島根県から、年に何回か泊まりがけで来る人もいたくらいである。
ところが、仕事は順調にいっているにもかかわらず、絶えず疑問にさいなまれ続けていたのだ。「自分は無駄なことをしているのではないか」という疑問である。(中略)。わたしの内面では、自信とコンプレックスの葛藤が続き、次第に疲れ果てていった。精神的にも大変不安定になり、「このままでは駄目になる」という、漠然として不安を感じるようになった。いったい何が、どこから狂ってしまったのだろうか……〉
むろん、麻原が本当に狂い出すのはこの後のことだが、この頃の麻原の文章は“純朴”といっていい。
「飽食時代の不安」といわれるように、恵まれた時代だからこそ、悩める人間は多くなる。高学歴で真面目で優秀、にもかかわらず浮かれた世間から取り残され、麻原同様「このままでは駄目になる」と思いつめ、この本を手にし、入信した若者が少なからずいたのだ。麻原が空中浮遊するパネルが貼られた教団施設を覚えている方も少なくないはずだ。
「『秘密の開発法』は、間違いなくオウム事件の原点。多くの人の人生を狂わせた罪深い本ですよ」(前出・新聞記者)
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