超早期発見と最新免疫療法 「ノーベル賞に最も近い異端児」が切り拓く「がんゲノム医療」

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ほぼ100%検出

 今年2月に米ジョンズ・ホプキンス大学が「サイエンス」誌に発表したデータによると、卵巣がん、肝臓がんのステージI、IIという、手術で治療できる段階のがんは、このリキッドバイオプシーでほぼ100%検出できた。また、胃がん、膵臓がん、食道がん、大腸がんに関してはやや精度は落ちるものの、それでも60〜70%の割合で検出できている。「再発予見」についても有効という結果がでていて、がんの切除手術後、血液に「がん遺伝子」が見つかった患者は2年以内に100%の確率で再発した。一方、「がん遺伝子」が見つからなかった患者の再発率は10%程度にとどまっている。

 中村の弁によれば、リキッドバイオプシーの「利点」はこれにとどまらない。

「(血液を採取するだけなので)組織を取る場合に起こる検査リスクが激減する。がん細胞を採取して調べる場合、身体に針を刺して臓器の一部を取ってこなければいけないので、出血や他の合併症の危険がつきまとっていたが、採血なら高齢者でも安全に検査ができます」

 このリキッドバイオプシーが実用化すれば多くの患者の命を救うことができる、と中村は考えている。

「なぜなら、がんのスクリーニング率が向上し、早くがんを見つけられるからです」

 膵臓がんなど一部のがんを除き、ほとんどのがんは、ステージI、IIという早期で発見した場合の生存率は80%程度。つまり、早く見つければ見つけるほど「救える命」が増えるのだ。がんとの戦いは「時間勝負」なのである。採血だけでがんを発見できるリキッドバイオプシーならば、「先手」を打つことができるというわけだ。そのなかでも、中村が効果を期待するのは、がん患者を絶望の淵に叩き落とす「再発」の予見である。

「現在、がんが再発した後で治癒するのは非常に難しいが、画像診断でわかるような塊になる前から叩けば、治癒率が上がるかもしれない。もちろん、しっかりと証明しなくてはいけませんが、常識的に考えれば、がん細胞が200万個の時と、20億個の時を比べたら200万個の時の方が助かる可能性は高い。MRIやCTと違い、ほぼリスクゼロの血液検査なら2週間に1回くらいやっても問題はなく、再発を見つけやすい」(同)

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