超早期発見と最新免疫療法 「ノーベル賞に最も近い異端児」が切り拓く「がんゲノム医療」
「ノーベル賞に最も近い異端児」が切り拓く「がんゲノム医療」――窪田順生(下)
民主党政権下で“医療改革の司令塔”に任命されるも、「日本独特の壁」 に絶望し、シカゴ大学医学部に拠点を移した中村祐輔(65)。ゲノム(全遺伝情報)を解析し、がんの治療に活かす世界的権威として知られる彼が、このたび国内に復帰する。7月1日に東京・有明にある公益財団法人がん研究会「がんプレシジョン医療研究センター」のセンター長に就任するのだ。
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かつて返り討ちにされた「日本独特の壁」を今度こそつき破る。そのための「武器」となるのが今、中村が日本での実用化を目指している「リキッドバイオプシー」という検査法と「ネオアンチゲン療法」という、2つの最新医療技術だ。
前者は、採取した血液、唾液、尿などのなかに、がん細胞のかけらや、「がん遺伝子」があるか否かを調べて、がんの発症や再発リスクを予見するという最新検査法で、既に米国では一部のがんで承認を受けている。
「もともと、がん患者の血液のなかには、“がん遺伝子”やがん細胞由来のDNAが漂っていることはわかっていましたが、調べるのには莫大なコストと時間がかかった。それが近年の技術の進歩で、わずか数万円程度で簡単にできるようになった。実用化にはまだいくつか課題はあるが、技術的にはほぼ確立されたといっていい」(中村)
検査の流れはわかりやすい。7cc程度の血液を採取して遺伝子を解析。その結果をAIが、がん遺伝子情報データベースと比較して、「異常」と判断すると、近いうちにがんがどこかに生じるか、がんが再発する可能性が高いというわけだ。
国立がん研究センター分子細胞治療研究分野の主任分野長である落谷孝広が続ける。
「従来の腫瘍マーカーもリキッド(体液)を用いたバイオプシー(生検)の一種ですが、これではステージI、IIの早期がんを発見することができませんでした。しかし、血液を採取し、そのなかに含まれるマイクロRNAという成分を調べることで、これまでは発見が難しかった早期がんを発見できるようになった。非常に画期的なことです」
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