このドラマだけは手放しでほめたい!!「スモーキング」(TVふうーん録)

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 8年前、この連載が始まった頃、編集長からは「8割けなして2割ほめる黄金比」と言われた。悪口を書くほうが性に合う。ただ、つまらぬ番組に大切な1ページを使うのは、正直もったいないと思い始めている。

 ところが、大好きなドラマを書くと原稿がちっとも面白くない。「お前の好きなんかどうでもいいんじゃボケ!」と自分でツッコむ。でも、今回は書く。がっちりムッチリしたうなじが最高にセクシーな石橋凌が主演の「スモーキング」を。

 石橋凌って車幅は増したが、なぜあんな色っぽいのか。私が子供の頃から変わらぬセクシーを放っている。あえて悪く書くならば、サンドウィッチマンと近似値の体型。いや、これはサンドウィッチマンの悪口か。

 今回の石橋は「剥師(はぎし)」なる職業。ええ、人間の皮を剥ぐんです。闇社会の依頼を受けてターゲットを拉致し、その人物の入れ墨を皮膚ごと剥ぎ取り、ホルマリン漬けにする。殺す奴もいれば生かすこともある。刺激的どころの騒ぎじゃない阿鼻叫喚の残虐シーンもあるのだが、皮膚にメスを入れるときの石橋の笑顔がもうたまらないわけで。

 石橋には仲間がいる。リサーチから物資調達まで請け負う関西弁の金子ノブアキ、元・地下格闘家で肉弾戦担当の丸山智己(ともみ)、薬剤に詳しい青年・吉村界人(かいと)。この4人が普段は公園でホームレス生活をしながら、舞い込む依頼をこなしていく。

 仲間というか今流行の疑似家族に近い。母親を目の前で殺されて失語症になった吉村を保護し、息子のように育てたのが石橋だ。お調子者で軽口叩く金子も、実は妊娠中の妻と娘を殺されたつらい過去がある。丸山はうっかり純愛路線猛進中だが、実は戸籍がない。地下格闘技も覚醒剤を打たれ、やらされていたという事実。背景はさまざまだが、根は清い連中なのだ。

 胸糞悪い映像もあるが、この4人が繰り広げる成敗物語には、根拠と愛がある。石橋のメスの生贄になる輩(やから)は、闇社会でも鼻つまみ者や連続殺人犯、女性や老人を食い物にする悪徳業者に、子供を虐待するクソ男など、要は極悪なクズばかり。

 成敗されるのが、これまた最高の布陣でね。千葉哲也、黒田大輔、市川しんぺー、河原雅彦、オクイシュージらが、生きたまま皮を剥がれる激痛を迫真の演技で見せた。本来は殺人に理由もへったくれもないが、「石橋たちに成敗されて当然」と思わせる鬼畜っぷり。そこに制作の良心を感じる。

 石橋はまっとうな正義感と義理人情を備えた人物だし、金子なんて極上に優しい目でターゲットの幼い娘を守ったし。理不尽な殺人はしない。女性と子供は極力守る。今の日本では絶滅した紳士の振る舞いだ(極悪女社長・山村紅葉は例外で、首から上をまるで映画のように爆破されたが)。

 敏腕剥師の石橋を取り込もうとする反社会的組織もいれば、さらにどす黒い地下組織もある。金と権力と殺人が絡む構造は、不穏かつ無限に広がりつつあるが、4人の活動目的は決して金ではない。義理人情と正義と日々のメシ。そこが好き。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年6月28日号掲載

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