戻ってきた“ノーベル賞に最も近い日本人” がん医学権威「世界のナカムラ」が祖国に絶望したワケ

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がんゲノム医療

 このような「がん」をひきおこす遺伝子――「がん遺伝子」については、1990年代より世界中で解析が進み、それに中村も大きく貢献。既に米国では2万数千例という膨大な数のデータベースが構築されている。この集積されたがん遺伝子情報と、患者個人のゲノム情報を、スーパーコンピューターやAI(人工知能)で照らし合わせ、個々に最適な治療を見つけ出すのが「がんゲノム医療」である。この着想は、オバマ政権以来、米国が国家プロジェクトとして進めている「プレシジョン・メディシン」(個別化医療)のベースにもなっている。

「輸血する際に必ず血液型を調べるように、がん治療をおこなう際にも、遺伝子検査をすれば個々のがんの個性がわかり、効果的な治療を選んで、副作用の危険が高い治療を避けることができる」

 そう語る中村はこの分野の第一人者だ。彼はこれまでゲノム情報を活用した新薬の開発に長く携わってきた。それらの実績から、「ノーベル賞に最も近い日本人」と評されてきた「世界のナカムラ」が日本へ戻ってくるのだ。がん患者でなくとも期待に胸が膨らむ。しかし、当の中村は久しぶりの「日本」に対してぬぐいきれぬ不安があるようだ。

「後ろからたくさん矢が飛んでくるかもしれないし、周囲の人間からは、『中村先生がいなかった6年の間も、日本の医療はなにも変わっていない』と言われますから、まだなにができるかはわからない」

 言葉の端々から、日本の医療界に戻る不安、医療制度に対する危機意識が伝わってくるが、同業者らに言わせると、それもいたしかたないという。

「民主党政権時にあれだけ派手にハシゴを外されるという挫折を経験したわけですから。日本の医療そのものに懐疑的なのでしょう」(国立大学で先端医療に関わる研究者)

 世界的権威の「挫折」。それを正しく理解するには、これまでの中村の歩みを振り返らなくてはいけない。

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