「ブーイングもいいもんだね」 キング・カズが語った「アウェーでのやじ」論

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 サッカーW杯日本代表のポーランド戦での終盤の戦い方は評価が分かれるところだろう。日本国内でも賛否両論渦巻いているが、それでも「予選突破できたのだから良し」という声の方が多いようだ。

 一方、実際の会場では相当なブーイングがあがっていたのも事実。せっかくチケット代を払って世界レベルのプレイヤーの試合を見ようと思ったら、途中からはまるでウォーミングアップじゃないか――というのが現地サッカーファンの本音かもしれない。

 もっとも、アウェイでのブーイングややじはスポーツではつきもの。それに屈しない精神力もまたプロに必要な資質なのだろう。

 海外での試合経験も豊富なキング・カズこと三浦知良選手は、著書『とまらない』のなかで、アウェーでのやじについて、経験をもとに持論を語っている。以下、同書収録の「『アウェー』と『やじ』」を引用してご紹介しよう。

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 アウェーの北朝鮮戦の体験談を日本代表の先輩から聞いたことがある。

 1985年。戦い終えて中国経由で帰国の途につく。見送る人々が妙ににこやかなのを気にしつつ、飛び立った。

 中国の大地が見えてくる。空は快晴。そこでアナウンスが響いた。

「天候が悪いため平壌に戻ります」

 舞い戻った空港には先ほどの人々が立ち位置も変えず、待っていたように手を振っている。

「外貨目当てなのかな」と思いながら平壌にもう1泊したらしい。

 これが敵地の洗礼かはさておき、アウェーとホームの区別はサッカーの文化そのものとして存在する。
 
 ヒデ(中田英寿氏)がイタリアで最も日本と違うと感じたのもそこだそうで、ホームで攻撃的なチームが「何でそんなに変わるんだ」といらだつくらい、敵地に赴くと守備的になる。

 外国人選手がJリーグに来て一番不思議に感じることって何だと思う? サッカーの内容うんぬんに関係なく、何かしら応援がずっと続くこと。ブラジルではアウェー側がボールを持つとシーンと静まる。そこでホームと違う感覚に陥る。日本ではそこまでホームとアウェーを実感しない。

 人間はメンタルな生き物だから、敵視されればときに影響されもする。でも今の僕は周囲の状況でプレーが乗る・乗らないはあっても、「落ちる」はないよ。それも経験なんだろう。

 11試合勝利のない横浜FCの選手がサポーターにけなされ、食ってかかる一幕があった。

「名指しでバカにされたのに黙るのはおかしい」

 一理ある。ただね、僕はサッカーに関することなら何を言われても腹は立たない。仕方がないと。

 試合中になじられたとしても、仮に最後の最後、1-0でもいいから勝てば誰もそんなこと言わなくなるわけでしょう? 見ている人はそういうもの。

「こっちも懸命なんだ」と言い返す選手もいる。でも一生懸命やったかどうかも、僕らが決めることじゃないんだ。外から見る人たちが決めることなんだから。

 ブラジルで最初は「ジャポネーゼ」とバカにされた僕が、やがて「カズ、ばか野郎」とやじられたときは感慨深かった。日本人というくくりを超え、個人として認められたんだなあと。「国境を越えるブーイング」はいいもんだね。

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 ブーイングも燃料にするくらいのメンタルがなければ、世界では戦えないのである。

デイリー新潮編集部

2018年6月29日掲載

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