ますます混迷を深める「小池百合子」都政 音喜多駿が解説
カイロ大卒業をめぐる「学歴詐称」疑惑が取り沙汰される小池百合子都知事だが、肝心要の都政運営でも厳しい舵取りが続く。まもなく丸2年の節目を迎える小池都政の功績と問題について、都民ファーストの会を離党した音喜多駿都議はどう見たか。(以下、「新潮45」2018年7月号より転載)
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2018年もまもなく半分が過ぎようとしている。テレビで小池知事の顔を見なかった日はなかった昨年に比べて、今年に入って都政や小池知事への注目度は急速に低下した。しかしそれは勿論、都政に問題がないことを意味するのではない。
小池都政誕生からまもなく丸2年となる節目を控えて、むしろ都政の重要課題はさらに混迷を深めていると言える。ここでは都民ファーストの会を離党し、小池知事と距離をおいた都議会議員である私の立場から、できる限り客観的に今年の都政と小池知事の「実績」を評価していきたい。
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負の材料ばかりが注目されがちであるが、実際には小池都政の「功績」といえる部分も少なくない。まず最大の目玉は、なんといっても受動喫煙防止対策だろう。国の法案が国際基準と比べて大幅に後退する中、東京都は小池知事が音頭を取り、8割以上の飲食店が屋内禁煙対象となる条例案が制定見込みとなっている。タバコや副流煙に嫌悪感を持つ都民が多いことを敏感に感じ取り、既定路線の変更を恐れない小池知事の大胆な気質が良い面に発揮されたといえるだろう。
また、LGBT等のセクシャル・マイノリティに対する施策も進んでいる。人権や教育、福祉など多岐に横断する本課題に対応するために専門部署の設置を検討する方針を打ち出し、都道府県では初となる「LGBTに焦点を当てた条例制定」を行う意向も表明した。
これはLGBT問題に極めて保守的な自民党が支配していた都政・都議会では考えられない動きで、小池知事ならではの功績と評価できる。ちなみに保守政治家である小池知事自身も、当初はLGBT施策について極めて慎重であり、知事選公約などにも言及は一切なかった。一方で、先の都議選で大量に当選した都民ファーストの会の新人たちにはこの問題に対して熱心な議員が多く、その存在が小池知事に好影響を及ぼしたのかもしれない。
財政危機に瀕していた初期石原都政以来となる行政改革プランである「2020改革プラン」を策定したことも評価できる。
外郭団体の見直しや公営企業の民営化などにも踏み込んだ改革案は、このまま計画通りに実現すれば、硬直化した都の仕組みに一石を投じられる可能性が高い。ただしこの改革プラン実現には、後述するような懸念材料も残っている。
「知事のイエスマン」
一方で問題も文字通り山積みだ。その筆頭はなんといっても、市場移転問題だろう。
豊洲市場開場と同時にオープンさせる予定だった賑わい施設「千客万来施設」は、実施事業者が小池知事の「築地再開発」の方針に強く反発し、著しい混乱が発生。5月1日に突如として行われた小池知事による直接交渉では、明確に謝罪をしない知事の不誠実な態度が批判を浴びた。紆余曲折を経て5月末日現在、五輪終了後に着工することで事業者との交渉はまとまったと報じられているが、ここまで着工が延期したことに対する補填策には都税が投じられることになるだろう。また、交渉の過程で失われた信頼関係も、一歩一歩取り返していく必要がある。
かたや築地市場跡地については、深刻な状況は変わっていない。知事の鶴の一声を受けて設置された「築地再開発検討会議」は5月下旬で幕を閉じたものの、大所高所から「大きな視点」を示すにとどまり、具体的な再開発プランは一切示されることはなかった。市場移転の基本方針発表から約1年が経過したにもかかわらず、いまだに築地市場跡地の収益性確保の見通しすら立っていない。また、「築地に一部市場機能を残す」「築地に帰りたい事業者のお手伝いをさせていただく」といった発言は反故にされつつあり、築地事業者の中には裏切られたとの思いを持つ人も少なくない。
豊洲市場開設後も、事業者との信頼関係構築には困難を伴うことは確実だろう。
東京五輪についての不安要素も多い。最大の懸念は、築地市場移転の遅延に伴い環状2号線正式開通が間に合わなくなった輸送計画だ。本来環状2号線を使う計画だった選手輸送等については、首都高を使用するプランへと変更されることが発表されたが、五輪大会時の都内交通量は激増することが見込まれている。民間企業への協力要請などで交通需要を抑制する計画が立てられているものの、あくまで「依頼」ベースであり、蓋をあけてみるまでどうなるかわからない。首都高が大渋滞して選手や大会関係者の移動が滞ることになれば、東京五輪の評価は厳しいものになるかもしれない。
鳴り物入りで試行を始めた「一者入札禁止」を柱とする入札制度改革も、事業者や議会サイドの反発を受けて、方向転換を余儀なくされた。豊洲市場建設工事の競争入札において、一者入札かつ99・9%という高い落札率が示されたことに端を発して行われた入札制度改革だったが、入札不調の件数が増加。都議会のキャスティングボートを握る公明党からも強い批判を浴びて撤回されたこの改革は、「都政にいたずらに混乱を招いただけ」と厳しい評価を下されている。
さらに、こうした入札制度改革や、先にあげた行政改革プラン策定を牽引した特別顧問たちは、予算特別委員会が行われている最中である3月に突然解任が発表された。賛否はあったものの、特別顧問たちが改革のエンジンであったことは疑いなく、今後都政改革が進むかどうかは極めて不透明となってしまった。これも公明党からの強い反発により、妥協を余儀なくされたことが指摘されている。
結局のところ、議会で「知事与党」が過半数を占めていない状況下において、キャスティングボートを握る政党が賛同する政策では実績を出せているものの、その他の分野に関しては散々な結果が目につく事態となっている。
小池知事を支えるはずの都民ファーストの会は、53名もの都議を有するにもかかわらず「知事のイエスマン」に成り下がっており、都議会における存在感は極めて希薄であると言わざるを得ない。
小池知事がここから改革を進めて実績を重ねるとすれば、議会側からの強力な後押しも必要不可欠だ。先ごろも、かつて小池知事が代表を務めた「希望の党」が四分五裂することとなった。自民党在籍時代から「派閥をつくれない」「リーダーシップがない」と指摘されてきた小池知事だが、都政運営はもちろんのこと、仲間たちを牽引していく能力が今こそ問われているのではないだろうか。私自身は是々非々を貫く勢力として、小池知事に建設的に対峙していきたい。