OPEC総会直前! エネルギー業界が注視する「中国LNG需要」と「米中貿易紛争」

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 オーストリアのウィーン本部で開催されるOPEC(石油輸出国機構)総会が近づいている(結果の記者会見は、日本時間6月23日の1:00ごろ予定)。

 直前の6月20~21日に「第7回OPEC国際セミナー」が予定されていたこともあり、関係者が続々とウィーンに集まっていた。彼らの一言々々が、総会での議論の方向を示唆しているため、市場は敏感に反応している。

 一方で、「米中貿易紛争」は激化しており、双方が報復の報復で「追加高関税」をかける対象品目リストを発表している。だが、邦字紙を読んでいる限り、エネルギー市場にどのような影響を与えるのか、もうひとつはっきりしない。米中貿易紛争が世界全体の貿易量を減少せしめ、結果として世界経済が悪化し、エネルギー需要への悪影響が出るかもしれない、ということは考えられる。だが、それ以上はよく分からない。

 たとえば『日本経済新聞』が6月16日に「中国が対米報復 7月、500億ドル分に25%の追加関税」と題して報じた記事の中では、「第2段階は原油、天然ガス、石炭などエネルギーが目立つ」とある。原油は、世界全体の取引量の中で米国産が占める比率は決して高くないから、他国からの代替輸入が容易だ。したがって、影響は軽微だろう。だが「天然ガス」は別だ。気体であるという物理的特性から、国際的にLNG(液化天然ガス)として取引されている量は、総生産量の10%程度と少なく、長期契約でひも付きになっていないものの量は圧倒的に少量だ。代替手当は容易ではない。本当に「天然ガス」の輸入に25%の追加関税を課すのだろうか?

 と疑問に思っていたら、東京時間6月21日13:00ごろ、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が興味深い記事を報じていた。

 記事の主要ポイントではないが、中国は「エネルギー政策」を「通商政策」に優先させ、LNGは追加関税対象品目から外しているそうだ。

 さもありなん、と思う。

 この記事が報じているのは、「3.11」のあと日本が代替電源燃料としてLNGを大量にスポット購入せざるを得なかったころに第1次ブームとなった、米国LNGプロジェクトが徐々に立ち上がりつつある。日本勢もいくつかのプロジェクトに参画している。だが、2020年代前半には大幅な供給過剰が予測されていたため、2015年から2017年までの3年間、新規のLNG案件はすべて中断していた。ところが、最近になって中国などのLNG需要増が目覚ましいものがあり、供給過剰感が薄れて米国LNGの第2次ブームが起こりそうだ、ということである。

「通商」より「エネルギー」

 さて、「US prepares for next wave of LNG exports」と題するFTの記事の要点を次のとおり紹介しておこう。ちなみにサブタイトルは「Chinese demand is soaring ―so much so that Beijing spared the product from tariff rises」となっている。

■先週、中国が報復的追加関税を課す米国産品目リストを発表した。石油(Oil)、石炭、LPG(液化石油ガス)など、ほぼすべての化石燃料が含まれているが、1つだけ目立つ例外があった。LNGである。

■LNGを対象から外したことは、石炭依存を断ち切ろうという中国政府の計画の中で、LNGがきわめて重要な役割を果たしていることの表れだ。中国のLNG需要は増加しており、米国からの輸入も急増している。すなわち、2015年はゼロ(筆者注:米国LNGの輸出開始は2016年が初)、2016年は170億立方フィート(LNG換算約36万トン)、2017年は1030億立方フィート(LNG換算約216万トン)となっている。中国は、少なくとも当分のあいだは、通商政策よりエネルギー政策を優先し、LNGには追加関税を課さないことを決定したのだ。

■これは、米国LNGプロジェクトの第2次ブームを計画している生産メーカー「Venture Global LNG」、「Qatar Petroleum」、「LNG Ltd」や「Tellurian」などにとって勇気づけられるサインとなっている。買主を求めている潜在的売主にとって、中国は大きなご褒美(prize)だ。

世界的なLNG需要増

■昨年、中国はすでにメキシコ、韓国に次ぐ第3位の米国LNGの輸出先となった。「米国エネルギー情報局」によると、2015年から2040年までに世界全体で増加する天然ガスの消費量の4分の1以上を占めるほどに、中国のガス需要は増加し続けるものと見られている。

■中国や発展途上国の急増する需要が、米国LNGの輸出を目指す事業者にとって、2018年をワクワクする年にしている。過去3年間、新規のLNGプロジェクトはいっさい決定されなかったが、数社が「最終投資決断」(FID)の時期が近づいていると言っている。だが、激化する米中貿易紛争が重い影を落としている。

■最初の米国LNGブームに基づき、現在、米国メキシコ湾沿いで着々とプラントが建設中であり、「Cheniere Energy」(CE)の最初のサビナ・パス・プロジェクトからは、2016年に第1船が出荷された。最後のものも2020年には完工予定となっている。期待されていた第2次ブームは、しばらく保留となっていた。

■供給過剰になると見られていたこともあり、2015年以降、新しいLNGプロジェクトは1つも許可が出ていなかった。先月(5月)、CEはテキサス州のCorpus Christiプロジェクトの増設を発表した。これは、滞っていた新規投資が動き始めたサインだ。

■新規LNGプラントの建設には約4年を要するので、今は2022年以降の動向を睨みつつ投資決断がなされることになる。だが、オーストラリアや米国第1次ブームなど数多くの新規生産施設が立ち上がることとなっており、向こう10年間は供給過剰になると見られていた。

■だが、そのような供給過剰の見通しは、LNG需要が急増していることから薄れつつある。中国の輸入量は昨年、前年比46%増となり、韓国を抜いて世界第2位の輸入国となった。

■需要増は世界的に起こっている。「国際LNG輸入者協会」(GIIGNL)によると、輸入国は2015年の35カ国から昨年40カ国に増えており、この2年間で輸入量は18%増加している。

■ロシア、カタール、モザンビークなど他国も新規LNGプロジェクトを計画しているが、シェール革命により豊富かつ安価なガスを持つ米国がもっとも競争力がある。「BP」の最高財務責任者(CFO)のBrian Gilvaryは、先週、FTコンファランスで、同社は米国が「世界でもっともコストの安いガスを供給し続けるだろう」と予測していると語った。

米中紛争リスクを警戒

■今まで、米国LNG第2次ブームとなる新規輸出プロジェクトを立ち上げようとしていた会社にとっての問題は、顧客を確保し、同時に金融を手配できないことだった。何十億ドルものプロジェクト・ファイナンスを供与する確信を得るために、融資元は収入を保証する20年契約を求めていた。だが、供給過剰が予測されていたため、顧客はそのような長期の引き取りコミットを避けていた。ところが、その情勢は変化している。

■今年2月、CEは、「China National Petroleum Corporation」(CNPC)と2043年まで毎年120万トン販売する契約を締結した。ルイジアナ州に2基のプラント建設を計画している「Venture Global LNG」は、これまでの「ロイヤル・ダッチ・シェル」ならびに伊「エジソン」向けに加え、5月に「BP」およびポルトガルの「GALP」と長期契約を締結した。

■その他の案件も進展している。ルイジアナ州で計画している「LNG Ltd」は来年早々のFIDを計画している。CEの前最高経営責任者(CEO)Charif Soukiが会長を務める「Tellurian」は、異なるビジネスモデルで推進している。LNGの買主に株主として投資してもらうやり方で、すでに25社が興味を示している。同社のCEOであるMeg Gentleは、最終的には4~8社の株主を期待している、と語った。「Qatar Petroleum」と「エクソンモービル」のJV(ジョイント・ベンチャー)である「Golden Pass LNG」は、今年中のFIDを見込んでいる。

■だが、これらの諸計画にとって最大の脅威は、米中貿易紛争である。米国LNG輸出は、今は対象となっていないが、紛争が終わるまでは、世界最大の成長市場から締め出されるかもしれないというリスクにさらされているからだ。

■「Columbia University’s Center on Global Energy Policy」のJason Bordoffは、「いま米国で新規LNGプロジェクトへの投資を考えているところは、米中紛争が紛糾し、米国LNGの中国向け輸出にも報復関税が課される可能性を考えて熟考し、他のところに投資するかもしれない」と語った。(岩瀬 昇)

岩瀬昇
1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同) がある。

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Foresight 2018年6月22日掲載

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