金正恩が南北・米朝会談で指紋消去、トイレ持参で排泄物も残さなかった理由

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排泄物を通じて健康情報が流出

 だが、次第に北朝鮮側が何を危惧しているのかが見えてくる。中央日報の「<南北首脳会談>米メディア「金正恩、北から専用トイレを持ってくる」…理由は?」(日本語電子版4月27日)を見てみよう。

《北朝鮮の金正恩国務委員長が27日に開かれる南北首脳会談に「専用トイレ」を持ってくるだろうと、米CBSとワシントンポスト(WP)が26日(現地時間)伝えた。

報道によると、金委員長は南北首脳会談の現場にある公衆トイレの使用を拒否した。自身の排泄物を通じて健康情報が流出することを憂慮したという推測が出ている。

CBSは北朝鮮指導部が自国軍の基地と国営工場現場を訪問する時も専用トイレが付いた車が同行すると説明した。金委員長の護送車両には専用浴室が設置されているとも伝えた。

ワシントンポストも「平和の家」での状況に関する話題に関心を見せ(略)、北朝鮮護衛司令部出身の脱北者イ・ユンゴル氏の発言を引用し、「(金委員長は)公衆トイレを利用するより、旅行時には専用トイレを準備する」とし「(金委員長の)排泄物には健康状態に関する情報が入っていて、指導部はこれを残していくことができない」と伝えた》(※編集部註:ルビなどを削除)

 健康診断で尿検査や検便を行うぐらいだから、確かに排泄物は“究極の個人情報”が含まれているはずだ。

DNA情報が得られる毛髪も狙っていた

 そして最後は米朝会談の終了後、帰国の様子を伝えた記事だ。産経新聞「北朝鮮が入念に撤収作業 宿泊ホテルに金正恩氏の指紋残さぬよう… 逮捕者も出た開催地シンガポール」(電子版6月13日)には、以下のような記述がある。

《北朝鮮は12日の首脳会談の署名式で、用意されていたペンを使わずに自分たちのペンを使うなど、金正恩氏が触れるものに細心の注意を払った。指紋情報の流出などを避けるためだとの指摘があり、ホテルでも入念に“後片付け”を進めたようだ》

 こうした“防衛策”を大げさと受け取る人もいるかもしれない。だが、それは間違いだ。北朝鮮の専門家は「韓国、シンガポール、そしてアメリカも、北朝鮮側の指紋や排泄物、DNA情報を得られる毛髪など人体の一部を、可能なら入手しようと狙っていたはずです」と指摘する。

「指紋や毛髪なら金正恩だけでなく、スタッフのものも必要としていたでしょう。まだ身元を明らかにできていない北の政府関係者が複数、金正恩に同行していたからです。いずれにしても、韓、米、そしてシンガポールの諜報部門にとっては喉から手が出るほどほしいものですが、北朝鮮側は抜け目なくしっかりとクリーニングしたと考えられます」(同・北朝鮮専門家)

 排泄物に話を進めるが、金正恩が祖父である金日成のイメージに似せるため、無理をして太っているという有名な話を思い出していただきたい。

祖父、父、そして孫も影武者を活用

 金正恩に対する“体重逆コントロール”が、彼の健康状態に悪影響を与えている可能性は、誰でも予測できる。

「生年月日は明かされていませんが、金正恩が30代半ばなのは間違いありません。あれだけ太っていれば、身体への負担は相当なものがあるはずです。これまでにも、糖尿病、痛風、心臓への負担などが囁かれていましたが、排泄物を手に入れれば金正恩の健康状態を推測できる貴重なデータを分析できます。直近に何を食べたのかという証拠だけでも、諜報機関にとっては宝の山です」(同・北朝鮮専門家)

 一方、金正恩の側からすると、自身の指紋が第3国に漏れることは、外交上の失点のみならず、深刻な内政上の危機も生む。それが影武者の問題だ。

「北朝鮮では祖父の金日成、父の金正日、そして孫にあたる金正恩の3人とも、常に影武者を稼働させています。基本は内政用、つまりクーデター対策です。もしアメリカが金正恩の指紋をシンガポールで入手し、CIAを通じて北朝鮮の反体制派に情報を流したとします。そうすると彼らは本物の金正恩と影武者を識別する“ツール”を持つことになります。金正恩側にとっては、それは何が何でも避けたいところでしょう」(同・北朝鮮専門家)

 本来、北朝鮮におけるクーデターは、特に中国の支援がなければ成立しないという。そして最近、中朝関係は急速に改善している。つまり謀反の危険性は低下しているわけだが、それでもこれほど大がかりな対策が必要なのだ。

週刊新潮WEB取材班

2018年6月21日掲載

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