財務省vs国会議員 「最強官庁」への大いなる勘違いを元キャリア官僚が解く

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放置され続ける大問題

 事務次官によるセクハラ発覚、決裁文書改ざん疑惑。2018年の国内ニュースの主役は財務省といっても過言ではないだろう。だがすでにこれらの問題には、一応の決着がつきつつあると言えるかもしれない。

 一方で同じ「財務省」マターでも、解決の糸口すら見えない大問題が放置されたままになっている。

 それは国の借金。よく知られているように、日本政府は借金まみれの状況にあり、2018年度末時点での公債残高は883兆円となる見込み。そこに国の「その他の借入金」、地方自治体の借金を加えた約1107兆円が長期債務の総額となる。

 GDP比にするとほぼ2倍の196%相当、想像もつかない額に膨れ上がっているだけでなく、その額が年ごとに膨らみ続け、借金体質は強まるばかりだ。

 この借金についてはよく議論されるものの、識者によって主張はまったく異なる。新聞などは「借金は大変な問題だ。財政再建は急務だ」という立場が主流。これはいわば財務省の主張と同じだ。

 その一方で、「国の借金は気にしなくていいのに、財務省が黒幕となって政治家を操り、消費増税を強行しようとしている」という立場の論者もいる。

 あまりに言い分が違うので、素人は戸惑うばかりだ。

 では、実際にはどうなのか。財務省ではなく、経産省OBの宇佐美典也氏は中立的な立場から、両方とも少しずつ間違っている、と解説する。

「世の中の多くの人は、財務省に対して大いなる勘違いをしているように思います。それは『財務省が政治家を操っている』『財務省は政府の借金を返そうとしている』という二つの勘違いです」

 いったいどういうことなのか。宇佐美氏の新刊『逃げられない世代――日本型「先送り」システムの限界』から紹介してみよう(以下、「」内は同書から引用)。

「私から見れば現実は真逆で『財務省は政治家の要望に応じて必要な資金を調達し借金を管理する機関』です。当たり前のことですが、もし本当に財務省が意のままに政治家を操ることができて、政府の借金を返そうとしているならば、そもそもこんなに借金が積み上がるはずがありませんよね。それにもかかわらず財務省黒幕説のような陰謀論が消えないのは、それだけこの借金問題を直視するのが政治的に難しいことの表れなのだと思います」

 実は力関係では、圧倒的に財務省より政治家が強いというのが元キャリアとしての見方である。

 その結果、ここまで膨れ上がってしまった借金額を、今後どうすればいいのだろうか。

とりあえず利子が払えれば

 もっとも、だから絶望的というわけではない。そもそも全額返済を目指す必要がないからだ、と宇佐美氏は説く。

「『え、借金を返さなくていいなんてそんな都合のいいことあるの?』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、別に国に限らず、企業も膨大な借金を抱え続けることはよくある話でそれほど驚く話でもありません。それによくよく考えれば、銀行などの金融機関は誰かにお金を貸して利子を払ってもらうことをビジネスとしているのですから、貸し手である銀行にとっても利子を払い続けてくれる限りは必ずしも借り手である企業や政府の借金が多いことは悪い話ではありません。例えば、企業で言えばソフトバンクなどは15兆円の有利子負債を抱えていると言われていますが、それでも経営は成り立っています。

 その意味では財務省が気にしていることは借金の総額そのものというよりも、『金利が払い続けられるのか?』ということです。

 財務省の資料によると2018年度の利払費の見込みは、883兆円の国債残高に比して9・0兆円で、これは金利にすれば1・0%です。同年度の日本政府の税収は59・1兆円ですから、この水準であれば払えないことはないといったところでしょうか。

 日本政府の利払費と金利の推移をまとめると、意外なことに利払費は1990年代よりも現在の方が低くなっており、例えば98年度の公債残高は295兆円に比して10・8兆円、金利は3・5%で、利払費は現在よりも約2兆円高い水準になっています。

 ただこうした低金利を利用した借金だよりの財政も限界の兆しが見え始めており、2010年度以降は『金利が下がっているにもかかわらず利払費が増えている』という状況で、危険な兆候が見え始めています」

 当面は「利子」だけ払えていればいいものの、それも巨額になりつつあるから油断はできない――これが現状というわけだ。

 大きな方向性として、財務省が目指す財政再建は全否定されるものではないのだろう。問題は、その推進役の信頼が地に落ちつつあるところだ。

 かくして、問題はまた「先送り」となるのである。

デイリー新潮編集部

2018年6月20日掲載

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