東海道新幹線殺傷事件は「親への究極の復讐」である 精神科医の片田珠美氏の分析

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 6月9日に起こった東海道新幹線殺傷事件。3人の乗客が刃物で襲われ、男性1人が死亡。殺人未遂容疑として逮捕されたのは小島一朗容疑者(22)だった。小島容疑者は犯行を認め、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述しているという。

 このような事件が起こるたびに、犯人たちがなぜ無関係の人々を殺そうとするのか疑問に思うところであろう。

無差別殺人の精神分析』の著者で、精神科医の片田珠美氏は、「無差別殺人を考える際には、彼らにとってそれが一種の自殺であるという点を理解することが重要です」と語る。

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 無差別殺人犯がしばしば犯行後自殺によって死亡することは、これまでの数多くの事例研究で既に指摘されている。犯行前に自殺願望を漏らしたり、自殺の決意を遺書にしたためたりしていた、あるいは犯行後自殺を図って未遂に終わった事例はもっと多い。したがって、多くの無差別殺人は、赤の他人を道連れにした「拡大自殺」としてとらえられる。

 小島容疑者も自殺願望が強かったと報じられており、今回の事件を「拡大自殺」ととらえるべきだろう。そもそも、自殺願望とは、自分自身に反転したサディズムにほかならない。殺したいほど憎んでいる誰かを実際に殺すわけにはいかないとか、殺せないという状況で、攻撃衝動が反転して自分自身に向けられるようになったのが自殺衝動である。

 当然、再び攻撃衝動が反転して外部の他者に向けられることもありうる。攻撃衝動の矛先が自分と他者の間を行き来するのはよくあることで、それが自分自身に向けられると自殺や自傷、他者に向けられると殺人や傷害の形で表面化する。
 攻撃衝動が自分自身に向けられるか、それとも外部の他者に向けられるかは、復讐願望の強さによって決まる。復讐願望が強いと、一人でおとなしく死ぬのではなく、誰でもいいから巻き添えにして最後に打ち上げ花火を上げたいという心理が働くためだ。小島容疑者が最終的に自殺ではなく、他殺に走ったのは、それだけ復讐願望が強かったからだろう。

 それでは、一体誰に復讐したかったのか? それは親だと私は思う。小島容疑者は、親から見捨てられたように感じていた可能性が高いからだ。親を殺したいほど憎んでいたが、親殺しを実行するわけにはいかなかったので、攻撃衝動が反転して自分自身に向けられ、自殺衝動を抱くようになった。この攻撃衝動が再び反転して外部に向けられた結果起こったのが今回の事件であり、親への究極の復讐とみなすべきである。

 片田氏は、その著書『無差別殺人の精神分析』において、「『拡大自殺』という概念は、無差別大量殺人を考えるうえで最も重要である」とし、「自らの抑うつや自殺を避けるための防衛として生じた他者に対する攻撃的な怒りが、不特定多数の他者に向けられる結果、自殺の等価物として無差別大量殺人は起こってしまうのである」と分析している。

デイリー新潮編集部

2018年6月20日掲載

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