なぜ「誰でもよかった」のか 「無差別殺人事件」を引き起こす6つの要因
6月9日夜、走行中の東海道新幹線車内で男女3人が刃物で襲われ男性1人が死亡するという事件が起こった。殺人未遂容疑で逮捕されたのは小島一朗容疑者(22)。小島容疑者は犯行を認め、「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述しているという。
今回の事件のような無差別殺人事件は後を絶たない。秋葉原無差別殺傷事件、大阪教育大池田小事件、池袋通り魔殺人事件…。彼らはなぜ殺戮者と化したのか。なぜ「誰でもよかった」のか。なぜ無差別に全く面識のない人を襲うのか。何が彼らに「最後の一線」を越えさせたのか――。
『無差別殺人の精神分析』の著者で、精神科医の片田珠美氏は、小島容疑者の精神構造を、以下のように分析する。
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アメリカの犯罪学者レヴィンとフォックスの分析によれば、無差別殺人は下記に挙げる6つの要因によって、引き起こされることが多い。これらの要因の多くは小島容疑者にも認められる。
(A) 素因
(1) 長期間にわたる欲求不満
(2) 他責的傾向
(B) 促進要因
(3) 破滅的な喪失
(4) 外部のきっかけ
(C) 容易にする要因
(5) 社会的、心理的な孤立
(6) 大量破壊のための武器の入手
(1)長期間にわたる欲求不満
犯行に至るまでの小島容疑者の人生を振り返ると、その底に澱のようにたまっている長期間にわたる強い欲求不満が見えてくる。
まず、実家の両親との折り合いが悪く、中2の終わり頃から自立支援NPOの施設で約5年間生活したとか、定時制高校を卒業後、職業訓練校を経て埼玉県内の会社に就職したものの、約1年後に「人間関係が合わない」と言って退職したという事実から、長期間にわたって欲求不満を抱いていたことがうかがえる。
また、2016年4月頃から実家を出て伯父方で暮らすようになったが、その後、何度も家出を繰り返し、今年1月に「俺は自殺するんだ」と言って自転車で家を出て行ったのも、強い欲求不満があったからだろう。
(2)他責的傾向
欲求不満が強いほど、自分の人生がうまくいかないのを他の誰かのせいにする他責的傾向も強くなりやすいが、小島容疑者の場合は根底に強い被害者意識が潜んでいるように見受けられる。この被害者意識には、実質的に育児放棄されていて、姉との格差に不満を募らせていたことが影響している可能性が高い。
小島容疑者が施設で生活するようになったきっかけは、中2の新学期に母親が姉には新品の水筒を与えたのに、小島容疑者には貰い物の水筒を与えたところ、その日の夜中に両親の寝室に入ってきて包丁と金槌を投げつけたことらしいが、駆けつけた警官に「新品の水筒を貰ったお姉ちゃんとの格差に腹が立った」と語ったという。こうした格差を常日頃から感じていたら、被害者意識を募らせても不思議ではない。
(3)破滅的な喪失
長期間にわたる欲求不満と他責的傾向という2つの素因があるところに、ある種の出来事や状況が加わると、それが引き金となって、爆発的な怒りを急に引き起こすことになる。
小島容疑者にとって破滅的な喪失が何だったのかは非常に興味深いが、半年前に家出する際に「自殺する」と言っていたところを見ると、昨年11月に障害者支援施設で働き始めたのに、1カ月もしないうちに辞めたことかもしれない。あるいは、家を出てから数カ月間野宿しながら長野県内を転々としていたのに、野宿していた公園からの退去を警察から求められて居場所をなくしたように感じたことかもしれない。一体何が引き金になったのかを今後の捜査でくわしく調べるべきだろう。
(4)外部のきっかけ
外部のきっかけとしてとくに重要なのは、いわゆる「コピーキャット(copycat)」、つまり他の事件の模倣である。コピーキャットの対象になった可能性が高い事件として脳裏に浮かぶのは、2015年6月30日、走行中の東海道新幹線の車内で発生した焼身自殺だ。先頭車両で70代の男がガソリンをかぶって焼身自殺を遂げ、逃げ遅れた女性1人が死亡し、28人が重軽傷を負う大惨事になった。この事件を小島容疑者は模倣したのではないか。
あるいは、前日の6月8日の一連の報道に小島容疑者は触発されたのかもしれない。6月8日はくしくも秋葉原無差別殺傷事件からちょうど10年だったし、17年前の同じ日に大阪教育大池田小事件も発生している。2つの事件に関する一連の報道が小島容疑者を後押しした可能性は否定しがたい。
(5)社会的、心理的な孤立
無差別殺人の犯人たちは、多くの場合、社会的、心理的に孤立した状態に置かれている。小島容疑者もまた孤立していた。その一因として、発達障害のせいで人間関係を築くのがあまり得意ではないことがあるように思われる。
(6)大量破壊のための武器の入手
今回の犯行で使われた凶器は刃物であり、誰でも簡単に手に入れられる。もっとも、秋葉原無差別殺傷事件で、ナイフと車という誰でも入手可能な凶器で犯行が可能なことにみな気づいたので、武器の入手はそれほど重要な要因ではなくなったのである。