フレキシブルな性について(古市憲寿)

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 勝間和代さんが女性と交際し、同棲していることをカミングアウトした。ツイッターなどを見る限り好意的な反応が圧倒的多数だ(一部には「略奪愛」だったのではという推測もあったけど)。確かに2人の写真は本当に仲良さそう。

 勝間さんの場合は男性との結婚経験もあり、よくある分類では「バイセクシュアル」ということになるのだろう。しかし勝間さん自身は、愛したのは「個人」であり、「性別」だとか、そうした定義には興味がないらしい。

「LGBT」という言葉の普及もあり、「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」などの概念は普及したが、実際の性的指向は多種多様だ。

 数年前、アメリカで話題になった『NOT GAY』という本がある。ストレートを自任する白人男性同士の性的行為に注目した本だ。一見すると「異性愛者の男性同士のセックス」なんて語義矛盾のように思える。

 しかし同書には、様々な事例が紹介されていた。たとえばアメリカでは昔から、若い男性同士が指を肛門に入れ合う「象の行進」という風習があるらしい(実際には、列になった裸の参加者たちが、前にいる男性のペニスを握って歩き回る程度のことが多いようだ)。

 他にも、異性愛者の男同士がフェラチオをする「bro-job」(broはbrotherの略で、兄弟のこと)が一部で流行しているらしい。

 これらは、仲間意識の表現や、友情の証としての性的行為と考えればわかりやすい。昭和の会社では宴会芸として、やたら脱ぎたがる男たちが多かったと思うが、それと同じ文脈で考えてもいいのかも知れない。

 かつての日本企業では、男性社員同士が、平日は毎日朝から晩まで、休日もゴルフなどで常にべったりという光景がよく見られた。こうした性的関係を持たない男同士の絆は、「ホモソーシャル」と呼ばれる。彼らはもちろんセックスなんてしないし、家や風俗では当たり前のように女性とセックスをする。時には同性愛者を嫌悪することさえある。

 しかし中には、ほとんど恋愛と区別がつかない関係になっているケースもあるはずだ。逆にセックスというゴールがないゆえに、通常の恋愛以上に親密になる場合もあるだろう。

 しかし男同士の性的行為は、必ずしも友情から発生するわけでもない。同じ本で知ったのだが、「ホモフレキシブル」や「ヘテロフレキシブル」という言葉もあるらしい。

「フレキシブル」を日本語に訳すると「柔軟な」。つまり「ホモフレキシブル」は「ほとんど同性愛者だが、異性に惹かれることもある」、逆に「ヘテロフレキシブル」は「基本的には異性愛者だが、同性とも恋愛関係を持ちうる性的指向」といった意味になる。

 こうした言葉が生まれるくらい、性的指向は本来、グレーゾーンが多く、柔軟で、自由なものなのだ。

 というわけで勝間和代さん、お幸せに。勝間さんを意識したわけではないが、やたらカタカナの多い原稿になってしまった。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2018年6月14日号掲載

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