「早稲田」「慶應」「MARCH」に入れない… 地方創生で私大文系が難化のワケ
“助成金カット”政策の狙いは
実はこの事態、「国策」によってもたらされたものだった。安田氏が続ける。
「16年から私立大学の定員が厳格化されました。15年までは、収容定員8千人以上の大規模大学について、入学定員充足率、つまり入学定員に対する入学者数の割合を1・2倍までに抑えれば、私学助成金が交付された。ところが、この基準が変更され、16年は1・17倍、17年は1・14倍、そして今年は1・1倍を超えると、助成金が全額カットされてしまうことになりました。さらに来年の入試では、全額カットの基準は据え置いたうえで、1・0倍を超えたら、オーバーした入学者の分だけ助成金が減額されます」
そもそも私大はなぜ、定員を大きく超える合格者を出すのか。教育ジャーナリストの後藤健夫氏に説いてもらうと、
「私大はいくつも併願が可能で、ほかの私大や国公立大学に合格し、そちらに入学してしまう受験生が多い。それを見越して、毎年入学定員充足率の基準以下になるように調整しつつ、多めに合格者を出します」
その基準が年々厳格化され、私大は文部科学省から「守らないと私学助成金をあげないぞ」と脅されているわけだ。助成金が収入の約1割に当たる私大は、矢も楯もたまらず合格者を減らし続けているのである。
後藤氏は、この政策の背景について、こう説く。
「都心部に多い私立大学の間口を絞り込み、少しでも地方に学生を流したい、という意図があります」
実際、文部科学省も、
「この厳格化には大きく二つの目的があります。一つは地方創生のため、大都市圏への一極集中を緩和するという目的。もう一つは学生に対し、教育の質をしっかり保証することです」
と返答する。もっとも、さすがにやりすぎを認識したのだろうか、
「都市部の私大が予想以上に難化しているという声は届いています。教育の質を保つことなども踏まえながら、来年も予定通り厳格化すべきかどうかも含め、判断することになります」
と加えるが、地方創生を補強する法案も、5月25日に参院本会議で可決された。東京23区内で大学の定員増加や学部・学科の新設を10年間禁ずる「地域大学振興法案」がそれだ。
「16年12月、地方六団体から、地方大学の振興と東京23区内の大学の定員抑制について、必要な立法措置を講ずるように要望がありました。それを受け、昨年2月に有識者会議で検討され、12月に最終報告をまとめていただいた。これを踏まえ、われわれは法案を立案しました」
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部はそう答えるが、これで地方は「創生」できるのか。安田氏は、
「効果は限定的でしょう」
と見る。その理由は、
「首都圏の有名私大に通う学生の7割以上は、1都3県の出身者。入試が多少厳しくなっても、残り3割が地元の私大や国公立大に進路を変更するケースは、全体から見ればごく少数でしょう。また都市部でも地方でも、近年は地元志向が強い。地元志向の受験生はもともと地元の大学を受けているし、ましてや首都圏の受験生が志望を変えてまで地方の大学を受験するケースは少ないです」
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