シュワちゃんに寅さん… 世界のVIPを唸らせた帝国ホテルの「靴磨き職人」

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シュワちゃんが「ワオ!」

 シルベスター・スタローン(昭和56年来日)の靴も磨きました。大柄ではないが、ガッチりした体つきで、足は大きかったですね。靴はイタリアのフェラガモだったと思います。

 私が感心したのは、マネージャーが主導権を持っていたことです。当時のスタローンは、これから売り出そうという時期でもあったのでしょう。マネージャーが、「シューシャインしろ」「サインを書け」と、命令していました。日本の芸能人のマネ一ジャーといったら、付き人のようなものですが、アメリカのマネージャーは、徹底的にマネジメントの権限を行使します。

 ジョン・ウェインの靴もとにかく大きかった。本人がここまで降りてきたわけじゃないけど、部屋から出た靴は40センチ近くあったんじゃないかな。

 病気になる前のロック・ハドソンも見ましたよ。あのエレベーターから体を折り曲げるように出てきたんです。いやあ本当にハンサムでしたね。

 フランク・シナトラ、メル・ギブソン……数え切れないくらい外国のスターの靴を磨きました。あ、それと今はカリフォルニア州の知事になっているアーノルド・シュワルツェネッガー。私の横で靴を磨くのを見ていたのですが、感動したらしく、「ワオ、凄い」と声をあげ、「しばらくしたら来る」なんて言っていたんだけど、来られませんでした。たぶん忙しかったんでしょう。

「グッド・ジョブ!」

 クローズ(閉店)5分前に、エレベーターから降りてきた外国人の男性が、靴を磨いてくれと頼んできたこともありました。快く磨いて差し上げたら、「グッド・ジョブ」と褒めてくれ、さらには「明日のオペラに招待する」と言うのです。その方の奥さんが、何でもニューヨークのメトロポリタン・オペラのプリマドンナ。後刻、マネージャーがやってきて、「ユー、彼と約束したな。これチケットだ」と2枚くれました。東京国際フォーラムで、前から3番目の席でした。

――通りすがり、キンちゃんの仕事ぶりに感心する人は多い。大臣経験者や大物財界人が、敬意を込めて頭を下げていく。平成6年、帝国ホテルに宿泊したシンガポールのリー・クアンユー上級相(当時)は日経新聞の「私の履歴書」にこう綴っている。

〈私は日本文化の中に、自分の仕事をきちんとやる人を尊敬する何かがあると思う。何かをやれるなら、どれだけ上手にやれるか見てみようというわけだ。94年のことだった。東京の帝国ホテルで靴磨きコーナーを受け持つ年配の2人を見た。今まで見たこともないほど靴をきれいに磨き上げたのだ〉(平成11年1月21日)

 リー・クアンユーさんは警護のSPを連れずに1人で来られたのです。そんな方だとは知らずに、靴を磨いて差し上げたら、「グッド・ジョブ」と褒めてくれました。履いている靴を「チャーチですか?」と尋ねたら、「私の靴まで分るのか」と驚いたように感心していました。「チャーチだから艶(つや)が出るんですよ」と言ったら、2度ビックリ。それで、あの「私の履歴書」となったのでしょう。

 アフガニスタン大統領のカルザイさん(平成15年2月来日)は、部屋から靴を5足下ろしてきました。カルザイさんがエレベーターから降りてきたとき、手を上げて、「ワンダフル! グッド・ジョブ!」と声をかけてくれました。その喜びようといったら、何ものにも誓(たと)えようがない。私には、チップより「グッド・ジョブ」と言ってくれることが、何よりのご馳走なんですよ。

――品のいい紳士が、こんな会話をしながら、キンちゃんの横を通り過ぎていく。

「帝国ホテルの靴磨きっていったら、日本一だよ」

「いや世界一さ」

週刊新潮 2005年1月13日号掲載

特集「『帝国ホテルの靴磨き』が見た華麗なる『戦後史』」

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