「悪質タックル問題」日大幹部の「へたくそすぎる敬語」問題
謙譲語が2つに
新しくなったのは「謙譲語」が「謙譲語I」「謙譲語II[丁重語]」に分けられた点である。前者は「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの」。
たとえば「伺う」「申し上げる」「お目にかかる」「差し上げる」等々。要は「I」については従来の「謙譲語」と同じだと考えても問題はなさそうだ。
新機軸なのが後者「謙譲語II[丁重語]」である。
これは「参る・申す」型とされており「自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの」と定義されている。
具体例は「参る」「申す」「いたす」「おる」「拙者」「小社」。
たとえば「私は明日から海外に参ります」という言い方、丁寧な感じはするものの、冷静に考えてみると、どこに敬意を払っているのかは不明だ。
「明日、ご自宅に伺います」(謙譲語I)ならば、話す相手を立てて敬意を払っていることは明らかだ。
しかし「海外に行く」という場合、出かけるのは自分であるから、本来敬語は必要ない。実際に「私は明日から海外に行きます」でも失礼にはあたらない。が、「参ります」を使うほうが聴き手に丁重で丁寧な印象を与えるのも事実。
この種の敬語は以前は「謙譲語」としてひとくくりにされていたが、指針では「謙譲語II[丁重語]」になったというわけだ。
「先生、明日、私は弟のところに参ります」といった言い方もこの「謙譲語II〔丁重語〕」にあたる。「弟のところに伺います」では身内の弟を立てることになるので間違いだが、「参る」ならば弟を立てる働きはなく、先生に改まった丁寧な言い方をしているから「謙譲語II[丁重語]」としては正しい、ということになる。
この場合、話者が立てているのは「弟」ではなく目の前にいる「先生」だ。
同様に、「部長、バスが参りました」といった言い方も「謙譲語II[丁重語]」にあたるとされている。本来、勝手にバスをへりくだらせる権限など、誰にもないのだが、目上に対して丁重に改まって伝えるために「参る」を使っているのだ。
このへん「何か違和感がある」という方は、文化庁のホームページにより詳しい説明があるので、そちらを参照されることをお勧めする。
美化語
「丁寧語」は従来と同じ。要は「です」「ます」である。さらに丁寧度が高い言葉としては「ございます」がある、というくらいに覚えておけばいい。
最後の「美化語」はちょっと目新しいはずだ。指針では「お酒・お料理」型とされていて、「ものごとを、美化して述べるもの」と定義されている。
「尊敬語」のところにあった「お導き」「御住所」はあくまでも、話の相手を立てるために「お」や「御」を使っているが、美化語の「お」はそれとは異なる。
たとえば「先生はお酒を召し上がりますか」といった文脈で登場した場合、「お酒」は、「先生の飲む酒」への尊敬が込められていると考えれば、「尊敬語」とされる。しかし、「先生、お酒飲みに行きます?」くらいの言い方の場合は、先生の飲む酒への尊敬というよりは、「酒」と呼び捨てにするといささか下品になってしまう、という考え方から「お」をつけているのではないか。そういう場合の「お」は「美化語」になるのだ。
人気者は使い分けがうまい
ここまで読んで、「やっぱり敬語はややこしい」と敬遠したくなる方もいらっしゃるかもしれない。
「問題は言葉遣いじゃなくて、ハートっしょ。相手とのスピリッツっしょ」
そう言いたくなる方もいらっしゃることだろう。
梶原さんも『すべらない敬語』のなかで、必ずしも常に敬語を使う必要は無く、ときにはあえて「タメ口」を使ったほうが距離が縮まることもある、とは述べている。ただし、そうはいってもテレビなどでの人気者は実は敬語の基本をおさえたうえで、ときおり「タメ口」を効果的に使えているのだ、とも指摘する。テレビで活躍している人気者、たとえばジャニーズのタレントや人気芸人などはおしなべてその使い分けがうまいのだという。
「一見、無軌道、傍若無人に見える若手芸人達も、実は上下関係には敏感で、『目上、目下』で巧みに言葉遣いを変えています。逆にいえば、こういう関係への感度がある人が生き残っているようです。
人気者の条件の一つとして、上下、親疎を使い分ける話術を活用できるということが挙げられるように思えます」
そういえば日大の少し前にメディアが集中して報じていたのはTOKIOの元メンバーの問題だったが、あの時のリーダーらメンバーが揃って開いた謝罪会見では、言葉遣いを讃える声すらあっても、「ヘンだ」といった指摘は見られなかった。一貫して身内に厳しい物言いをしていたし、それこそそのハートが伝わる話し方だったからだ。
とりあえず、就活生の皆さんは、学長よりもこちらの言葉使いを参考にしたほうがいいだろう。
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