東京は「座れる通勤電車」ブーム 大阪は「20年間検討中」のなぜ?
背景に少子高齢化
モーニング・ウィング号(京急)は名前の通り、平日の朝、神奈川県の三浦海岸駅と東京都の品川駅、泉岳寺駅の間を結んでいる。三浦海岸駅を午前6時9分と、午前7時56分に出発する2本。1カ月単位の着席指定券を販売しているのが特徴だ。
一方のS-TRAIN(西武)は、平日なら埼玉県の所沢駅と東京都の豊洲駅、土休日は埼玉県の西武秩父駅と横浜市の元町・中華街駅を結ぶ。全席指定で、こちらは朝が1本しかなく、夕方から上下線で約10本が運転される。
京王ライナーは、新宿駅から京王八王子駅行きと、神奈川県の橋本駅行きという2系統を運行しているが、やはり平日の始発は午後8時。S-TRAINと共に帰宅する社会人の「今日は疲れたから座って帰りたい」という需要に対応していることになる。
「背景にあるのは少子高齢化です。団塊の世代が定年延長も終了したこともあり、通勤と通学の乗客が減少する一方なのです。利用客が減ったなら、客単価を上げるのが経営の基本でしょう。鉄道会社の思惑と、追加料金を支払ってでも座りたいという乗客のニーズが首都圏ではうまく噛み合っていることになります」(同・編集者)
「金を出してまで座ろうという“関西人”はいない」
ところが日本で首都圏に次ぐ経済規模を誇る関西圏では、こうした「追加料金が必要な通勤・通学電車」の運行は少ない。関西では伝統的に不人気だと証言する資料が手元にある。朝日新聞大阪版が「グリーン車通勤 関西人が乗るか? JR西日本需要予測」という記事を93年8月17日の夕刊に掲載しているのだ。
新聞記事だから、もちろん文体は硬く、極めて真面目なトーンだ。しかし、その冒頭は相当に衝撃的なことが書かれている。
《グリーン車を「復活」させるべきか、否か――JR西日本がグリーン車を通勤電車に連結させた場合の需要予測を進めている。かつて関西でも走っていたが、十三年前に当時の国鉄が「金を出してまで座ろうという客はいない」と廃止したいきさつがある》(※漢数字は原文ママ、以下同)
金を出してまで座ろうという客はいない――。つまり平易な表現に書き換えれば、関西人のケチ精神がグリーン車を廃止させてしまったことになるわけだが、ともかく前に進もう。
《関西でも一九六一年から八〇年まで、京都-西明石間などを走る国電の快速に連結していた。しかし、七九年の利用率調査で、午前七時-九時の通勤ラッシュ帯でも京都-高槻間の五二%が最高で、終日平均は一〇%台と低かった。「ただ乗り」するケースも多かったことから廃止となった》
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