63億円を取られた「積水ハウス」 詐欺から1年、背景に地面師と暴力団の影
「一銭ももらってない」
小林楠扶氏が普通のヤクザと違ったのは、政財界に幅広い人脈を持つフィクサーだったことだ。昭和33年にインドネシアのスカルノ大統領が来日した際にはボディガードを務め、右翼の大物・児玉誉士夫や伊藤忠商事の瀬島龍三とも交流があった。芸能界では萬屋錦之介とは昵懇の仲で“釣り仲間”でもあったという。
「裏の世界の大物として名を馳せた小林楠扶氏は、住吉会の次の会長になるのは間違いないと言われていました。しかし、平成2年1月に肝臓がんで亡くなってしまうのです。葬儀には財界人や萬屋錦之介、菅原文太に若山富三郎など芸能界の大物が列席したものです」(同)
もちろん、父親が任侠界の大物組長だからといって子供たちも同じ世界の住人とは限らない。実際、長男も次男も暴力団関係者ではない。が、伝説のヤクザの子息が揃って登場するのだから、取引相手が父親の影を感じたとしても不思議ではない。
では、2人は、どんな経緯で取引に関わることになったのか。
「次男は西武系の会社などを経て、父親のツテで入った大手の葬儀場運営会社の専務にまでなっています。しかし、その会社を辞めてから芸能プロダクションを経営するなど、いくつかの事業に手を出していました。IKUTAホールディングスのオーナーとは長年の付き合いがあったことから、海喜館の取引にも首を突っ込むことになったのです」(知人)
そこで、本人に取材を申し込んだものの、締め切りまでに回答はなかった。一方、長男はというと、
「私をこの取引に巻き込んだのは弟です」
と明かすのである。
「彼とは、ここ数年、没交渉だったのですが、昨年の2月ごろ、久しぶりに連絡があって仕事を手伝ってほしいと言って来た。“いくつかの物件を売りたいので買い手を探してほしい”というものでした。その中にあったのが、海喜館でした。そこで私の取引先に声をかけたところ、1社が関心を持ってくれた。ところが、IKUTAホールディングスが取引を急ぐので、その会社は怪しいと思い、下りてしまったのです。後で、積水ハウスが購入することになったと聞きましたが、そこには、私はまったく関わっていません」
それならば、積水ハウスとA子が契約したマンション取引に、長男が仲介業者として登場するのは、どんな事情からなのか。
「昨年5月の半ばごろ、IKUTAのオーナーと女社長に“A子が積水のマンションを購入することになったので、仲介をしてほしい”と頼まれたのです。積水がA子に手付金を払っていたことから問題ないと思って、売買契約書を作成しました。ところが、いつまで経っても手数料が振り込まれない。そうこうするうちに8月になって、積水ハウスが詐欺に遭ったと発表して大騒ぎになった。だから、私はこの取引で一銭ももらってないのです」(同)
と、自身もまた被害者であるという口ぶりだ。
さて、積水ハウスは、小林兄弟の“関与”をどれほど承知していたのだろうか。
「ご指摘の仲介業者の親族に関する情報は、弊社の知らない情報であり、その真偽も含めて、弊社からのコメントは差し控えさせて頂きます」(広報部長)
地面師による詐欺事件の解明は難しい。誰もが「自分も騙された」と言い張るからだ。一等地欲しさに目がくらみ、大火傷を負った積水ハウスもまた、すべてを明らかにしているわけではあるまい。
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