熟練医も見逃す「胃がん」をキャッチ AIが切り拓くがん治療の最先端

ドクター新潮 医療 がん

  • ブックマーク

医師とバトル

 その上で、検証用に用意した69人分の内視鏡画像2296枚をAIに解析させたところ、その速度は、先にご紹介した通り1枚あたり0・02秒という、人間の能力を遥かに凌ぐもの。

 肝心の胃がんの有無を見分ける正答率は92・2%で、ごく早期のがんを除いた6ミリ以上の病変に限定すれば、98・6%の正答率を出すことに成功したのだ。

「熟練した内視鏡医のレベルに匹敵する正答率でしたから、AIの助けを借りれば、経験の浅い研修医や疲労困憊の医師でも、ケアレスミスを確実に減らせるようになると思います」(同)

 その仕組みは至ってシンプルだ。システムが組み込まれた装置に繋いだ胃カメラで体内を撮影すると、同時にAIがモニター上で胃がんの場所を枠で囲って指摘してくれる。現場で使いやすいよう小型化し、使いやすさにもこだわったと多田氏は胸を張る。

「ビデオデッキをテレビに繋ぐ気軽さで、5分程度で設置できます。複雑で大きなサーバーのような機械が現場にきても邪魔ですからね。人間ではなかなか判断しづらい部分を、AIが指摘してくれるのに加えて、胃カメラによる撮影の抜け、つまり人間の操作ミスもチェックするようプログラミングされていますから、見逃しを防いでくれます」

 今後は、食道がんや大腸がんにも応用できるよう開発を進めるという。ならば、近い将来、がん検診は医者いらずでAIが担う――そう思わずにはいられないが、これに多田氏は否定的だ。

「特に、年配の医師の方は“AIで仕事がなくなる”なんておっしゃいますが、とんでもない。AIは、あくまで医師に確率を提示してくれるものであって、最終的な“診断”をするわけではありません。例えば、動物を見て『イヌかネコか』を判別できるAIがあったとして、キリンの写真を見せるとしましょう。すると、AIはキリンの容姿の中にイヌかネコか、どちらかに近い特徴を懸命に拾い出して答えようとする。『キリンだ』と言えないのがAIの課題なんです。ですから、我々のシステムは便利な道具として医師をアシストするだけ。医師の側も、使いこなせるようレベルアップしなければなりませんが、決してAIは医師とバトルする存在だと考えてはいけません。AIの開発が進むことで、日本の医療界、医師のレベルが上がっていくことを我々は願っています」

(3)へつづく

週刊新潮 2018年5月24日号掲載

特集「0.02秒で超早期発見! 再発リスクも完全予測!! 『AI』が切り拓く『がん治療』の最先端」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。