米PGAツアー「大会名」「会場」めまぐるしい変化の「意味」と「意義」
先週の米PGAツアーの大会「AT&Tバイロン・ネルソン」は、今年から新しいコースで開催された。そして、24日(木)から開幕する今週の大会は、開催コースは従来通りの「コロニアルCC」(テキサス州)だが、今年は突然、大会名が「フォートワース招待」と改められた。
今年8月に開催される世界選手権シリーズの「WGC-ブリヂストン招待」は、松山英樹が2連覇をかけて臨む予定だが、同大会は今年を最後にタイトル・スポンサーも戦いの舞台も変わり、2019年からは新生大会になることが決まった。
そんなふうに、次々にさまざまな「NEW」が飛び出す米PGAツアー。その現象は果たして何を意味しているのだろうか。
新しい活力
「AT&Tバイロン・ネルソン」は、2002年に丸山茂樹が優勝した当時は「バイロン・ネルソン選手権」と呼ばれていた。開催コースは1983年から昨年までの30年超、ずっと変わらずテキサス州ダラスの「TPCフォーシーズンズ・リゾート」だった。
1990年代から2000年代にかけては、トッププレーヤーたちがこぞって出場する主要大会の1つで、丸山が優勝した際、「タイガー・ウッズをはじめとする強いプレーヤーたちと一緒のフィールドで、彼らを抑えて勝てたことがうれしい」と語ったシーンは今でも昨日のことのように思い出される。
だが、その後、米PGAツアー選手たちの飛距離が飛躍的に伸び、パワーゴルフの時代が到来すると、フォーシーズンズは「距離が短くて狭い中に、水や砂のワナが詰め込まれ過ぎている」などとコースに対する不満や批判が続出し、強豪選手たちは出場を避けるようになっていった。
近年は米誌『ゴルフダイジェスト』のゴルフコースのランク付けで、毎年のように「米国のワーストコース・トップ10」に数えられるほどになり、そんな状況下で持ち上がったのが大会開催コースの変更だった。
今年から新たな舞台となった同じテキサス州ダラスにある「
」は、2016年にメンバー向けに開場されたばかりの誕生間もないメンバーシップコースだ。テキサス州出身でマスターズ2勝の名プレーヤー、ベン・クレンショーにコース設計を依頼し、クラブメンバーにははやり同州出身のジョーダン・スピース、同州ダラスに住居をもつハンター・メイハンらを早々に迎え入れて、彼らをクラブの“顔”にした。
スピースの幼少時代からのコーチ、キャメロン・マコーミックも専属インストラクターとして雇い入れ、同コースをダラスに本拠を置くSMU(サザン・メソジスト大学)ゴルフ部のホームコースとして提供する上、マコーミックにゴルフ部の学生たちへの指導も依頼。
さらには、経済的、環境的に恵まれない子供たちにゴルフを通じて社会教育を行うことを目指すNPO「ザ・ファースト・ティ」のダラス支部の活動拠点としても同コースを活用するなど、社会貢献への姿勢は100点満点を上回る120点というところだ。
クレンショー、スピース、メイハン、マコーミックといった一流の面々からの助言を採り入れ、トーナメントコースとして仕上げられたトリニティ・フォレストは、いわばテキサス州が誇る“ゴルフの人材”の結集と言っても過言ではない。
「全英オープン」の難コースを彷彿させるリンクス風のデザインだが、距離の短いパー3、パー4も織り交ぜられ、「ピンをデッドに狙うダーツゴルフも可能。強風さえ吹かなければ、スコアが伸びるバーディー合戦となり、ワクワクの試合展開が期待できる」とは、大会関係者の言。
蓋を開けてみれば、成績が振るわなかった選手たちからは若い芝、若いコースに対する不満も聞かれたが、優勝した21歳の今季ルーキー、アーロン・ワイズは「創造的なゴルフが求められるユニークで素晴らしいコース」と評していた。
トリニティ・フォレストに対する評価は、今後、しばらく時間をかけて行われると思われるが、ともあれ、30年以上の歴史にピリオドを打って開催コース変更に踏み切り、さらには各種団体との連携プレーで社会貢献やチャリティにも取り組み始めた同大会と米PGAツアーの姿勢には、新しい活力が感じられる。
ノースポンサーでの「努力と意欲」
トリニティ・フォレストを擁するテキサス州ダラスの隣町、フォートワースにあるコロニアルCCで開催される今週の大会の名称が、昨年までの「ディーン&デルーカ招待」から「フォートワース招待」へと突然、改められた理由は、タイトル・スポンサーだった飲食チェーン「ディーン&デルーカ」が6年契約だったにもかかわらず、わずか2年で降りてしまったからだ。
新スポンサーを探す時間的余裕がなかったため、同大会は今年はノースポンサーでの開催に踏み切り、大会名に付けるべき冠もなかったことから、やむなく地名を付けて「フォートワース招待」と名乗ることになった。
コロニアルCCは1946年から同大会の舞台として70年以上、親しまれてきた。同一コースで開催されている米PGAツアーの大会の中では、このコロニアルが最古。距離は短いものの、戦略性は想像以上に高く、そこに選手たちはリスペクトを払っている。
クラブハウス前には、かつてフォートワースの街に住み、このコースで5勝を挙げたベン・ホーガンの銅像が建立されている。
そんなコロニアルの歴史と伝統を守り、同コースでの大会を維持すべく、大会側と米PGAツアーはノースポンサーでも頑張っているのだが、その努力と意欲が評価され、2019年からは金融グループ「チャールズ・シュワブ」が大会の新たなタイトル・スポンサーになることが先月に決まった。
「ブリヂストン」から「フェデックス」に
さて、今年8月に松山が連覇に挑む世界選手権シリーズの「WGC-ブリヂストン招待」は、冒頭で触れた通り、今年を最後に大会名も開催コースも変更となる。
タイトル・スポンサーは「ブリヂストン」から「フェデックス(FedEx)」に変わり、2019年からは大会名が「WGC-フェデックス・セントジュード選手権」と改められる。開催コースも長年の舞台だったオハイオ州アクロンの「ファイアストンCC」を離れ、フェデックス社の本拠地であるテネシー州メンフィスへ移る。
松山が優勝した大会の名前や開催場所が変更され、今後、その名称が聞かれなくなるのは、なんとなく淋しい気がしてしまう。
とは言え、ブリヂストンは米ゴルフ界や米PGAツアーとともに歩むことをやめるわけではないそうで、来年から同社は「シニア・プレーヤーズ選手権」をスポンサードし、その舞台はファイアストンCCになるという。
リスクマネジメントも
プロゴルフの世界は、スポーツの世界であると同時に、スポンサーあってこその興業ビジネスの世界でもある。スポンサー離れによる試合消滅は、言うまでもなく、ビジネス上の最大のダメージである。
AT&Tバイロン・ネルソン、フォートワース招待、WGC―ブリヂストン招待の3試合だけを眺めてみても、開催コースが変わり、タイトル・スポンサーと大会名が変わり、さらにはそのどちらも変わるという具合に目まぐるしく変化しているが、これは負の現象でもない。
スポンサーが1つ降りても、すぐに次なるスポンサーが現われ、契約にこぎつけているのだから、米ツアーをスポンサードする意義や効果がビジネスの世界で高く評価されている証とも言える。
開催コースが新たに造られ、その地元に大会を基軸にした社会貢献の新しい輪が生まれていることは、米ツアーと一般社会との関係を今まで以上に深め、広めることにつながっていく。
目まぐるしい変化を目の当たりにして、米ツアーの行く末は大丈夫なのだろうかと心配する声も聞こえてくるが、次々に「NEW」が生まれている現状は、変化を支えてくれる人やモノが周囲にたくさん存在し、「変わることができている」というアクティブな状態。ポジティブに捉えて良いだろう。
唯一、気になるのは、ここで例として挙げた大会の新たなスポンサーとなるフェデックスやチャールズ・シュワブと米PGAツアーとの関係性だ。両社は以前から米PGAツアーとの関わりがきわめて深く、現在もポイントレースである「フェデックスカップ」(米PGAツアー)や「チャールズ・シュワブ・カップ(チャンピオンズツアー)」をスポンサードしている。
そんなふうにツアーそのものを支えているビッグスポンサーがさらに大会スポンサーにもなることは、両社が米ツアーにとってさらに太い柱になる一方で、スポンサーが特定企業へ集約され、柱の本数が減っていくことも意味している。
柱が太くなればなるほど、その太い1本が抜けたときのダメージは多大になるわけで、そのあたりのリスクマネジメントが米ツアーの今後の繁栄と生き残り策のカギになりそうだ。
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