スパルタ刑務所で“ゴマスリパシリ”だった平尾脱獄囚 逃亡成功で周囲からヒーロー扱い?
プロテイン作製係
この息苦しい「スパルタ空間」で、平尾はどのように振る舞っていたのだろうか。
「会長」が続ける。
「自分がいた時には、平尾は下期生でした。こうした規則のところですから、妙な話、トップの会長である俺の覚えがめでたければ、ずいぶん有利になる。だからゴマスリみたいなことはたくさんされましたよ。汚れた作業靴を勝手に洗ってくれていたこともあったな……。風呂に入る時は、シャンプーを部屋から持って行き、使った後は持って帰るのが決まり。俺が湯船につかると、平尾は、さっとシャンプーをまとめてくれたりもしていましたね。俺がドアを開けようとすると、その前に開けてくれたり、外に出る時には、外履きをさっと出しておいてくれたり……」
信長に対する秀吉バリの努力である。
「結果的には、パシリのようなこともさせてしまっていたように思います。寮の最上階には、簡単な筋トレルームがある。俺は筋トレの前に、いつもプロテインを飲んでいたんですが、プロテインの粉からドリンクを作ってくれていたのも、平尾でしたね。会長の俺は、パソコンでいくつか資料を作成する仕事もあったのですが、俺が打ちこむ必要のある場所だけを残してほとんどやってくれていたこともありました。あと、俺がイケないことをする時に、刑務官に見つからないように見張りをしてくれていたのも平尾でした……」
かくも覚えのめでたかった平尾だが、「会長」は、彼を2度、怒鳴りつけたことがあったという。
「ひとつは新入訓練の時、村上水軍の末裔のお年寄りの講演があったんです。でも、彼は姿勢よく聞いてはいたものの、膝を閉じていなかった。で、“せっかく講演してくださってんのに、それは何や!”と。あとは1月のソフトボール大会の時。平尾はハッスルして走っている時に足を挫き、翌日の作業を休んだんです。その時も、“お前は何しにここに来てんねん! どっちが大事や。帰れ!”と怒った。平尾は“はい、すみません”と大人しく謝っていましたが……」
なるほど、やっぱり辛かった気もする。
こうした「ゴマスリ」もあり、他の寮生からは「自分のことも出来ていないくせに、他の奴にいろいろ注意するから、周りも不満が溜まっている」と評されていた平尾。「会長」の目には、寮生との間にトラブルは見えなかったというけれど、ここは、かつて平尾の入寮以前に、大井作業場で過ごした元受刑者たちに話を聞いてみると、
「飯を3〜4杯も食わされる。食えないと厳しい“シゴキ”を受けた」
「V字腹筋をさせられ、横で自分の悪いところをがんがん指摘される。それに対して“すみませんでした!”と叫び続ける」
「同室だった役付と仲が悪く、“朝までヒンズースクワットをしろ!”と命じられた。あまりにキツイのでトイレに行きます、と言って、トイレで寝ていたらバレてさらにスクワットをやらされた」
などなど、「イジメ」と取れる行為は伝統のようにあったというから、「ゴマスリパシリ」の平尾にも同様のことがあったとしてもおかしくないのである。
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