「西郷どんは奄美大島で“別人”に生まれ変わった!」有名思想家が力説
いよいよ中盤に入ったNHK大河ドラマ「西郷どん」。13日放映の第18回「流人 菊池源吾」では、藩命により菊池源吾という名でひそかに奄美大島に流された西郷が描かれた。
「今回の大河ドラマが〈新しい〉とすれば、それは西郷が奄美大島などに〈島流し〉に遭っていた時期にフォーカスを当てたところにあると思います」と語るのは、日本思想史の研究者で、『未完の西郷隆盛:日本人はなぜ論じ続けるのか』の著者である先崎彰容さんだ。
「奄美大島における西郷がどう描かれるのかに注目しています。なぜなら、思想史研究では、この時期に西郷の思想が大きな転回を遂げたという説があるからです」
どういうことか? 先崎さんは以下のように解説する。
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ドラマや小説では、西郷は「維新回天の英雄」として描かれるか、あるいは「西南戦争で散った悲劇の主人公」として描かれるか、どちらかのパターンが多く、流人として地味な生活を送っていた南島時代がフォーカスされることは、ほとんどありませんでした。
しかし思想史研究においては、西郷の南島時代にこそ注目すべきだという議論が昔からありました。たとえば、林真理子さんの原作『西郷どん!』の参考文献にも挙げられている『西郷隆盛紀行』の著者・橋川文三も、そう主張する一人です。
橋川文三は60年代から70年代にかけて論壇をリードした有名な思想家ですが、彼は「西郷は30代の壮年期に、都合5年にもわたり、本土から遠く離れた南島で不遇の時期を過ごしたのだから、そのあいだに何かしら大きな思想的変化が生じているに違いない」と考えました。
では、一体どんな変化が生じたのか――?
橋川は、「西郷は天皇の影響が及ばない南島で過ごしたことにより、それまでとは異なる〈もう一つの日本〉を構想するようになったのではないか」と力説しています。極端に言えば、西郷はそれまでの「勤皇の志士」から、南島時代を経て、天皇を超える国家を目指す「革命家」に生まれ変わったということです。
西郷がなぜ西南戦争を起こしたのかについては、これまで謎とされてきましたが、拙著『未完の西郷隆盛』でも詳しく論じたように、西郷の南島経験を踏まえれば、不平士族に担がれてやむなく始めたのではなく、「第二の維新」を起こして天皇を超える国家を作ろうとしたのではないかと私は考えています。そう考えれば、西郷が西南戦争を始める際に、天皇に対し「征討を私するもの」と激しい批判を浴びせたのも合点がいきます。
西郷にとって、明治維新は「未完」の革命であり、西南戦争はそれを「完成」させるための戦いだったのではないでしょうか。
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はたして先崎さんが論じたように、西郷は奄美大島で思想的な大転回を遂げたのだろうか。今後の大河ドラマで西郷の南島時代がどう描かれるのか楽しみだ。