「日本人よ誇りを持て」 日本の高校生を泣かせた、92歳マハティール首相のスピーチ

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92歳の首相就任

 マハティール・モハマド氏がマレーシア首相に返り咲いたことを伝えるニュースでは、その92歳という年齢への驚きがメインに扱われていることが多い。

 なにせ首相の年齢が高いことが問題視されていた日本ですら、首相就任の最高齢は77歳。マハティール首相と同じ年に生まれた有名人を並べてみれば、三島由紀夫、マルコムX、野中広務、橋田壽賀子……。いかに92歳で首相就任ということが異例であるかがよくわかる。

 ただ、日本人がマハティール首相について知っておくべきポイントは、これ以外にもある。前回首相をつとめた際には「ルック・イースト(日本の経済成長を見習おう)政策」を掲げたほどの親日家であるマハティール首相は、自国民に日本の素晴らしさを伝えると同時に、日本人に対してもさまざまな形で熱いメッセージを送り続けてきた。

 たとえば2002年11月には、マレーシアを訪れた東京都立国際高校の修学旅行生に向かって「あなたたちは日本人の勤勉な血が流れているのだから、誇りに思いなさい」と訴えている。

 これを聞いた高校生たちは、「感動した。こんなことを言ってくれる日本人の政治家はいない」と感激し、涙を流していたという。少し前のスピーチなので、現状とは異なる部分もあるが、メッセージそのものは現在の私たちの胸にも響くところが多い。 

 マハティール首相の著書『立ち上がれ、日本人』に収録されているそのスピーチを全文ご紹介しよう(同書の「序章 日本人よ誇りを持て」)。

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日本に学んだこと

 発展途上国であるマレーシアは、日本から多くのことを学びました。

 首相に就任した1981年、私は「ルック・イースト政策(東方政策)」を国策として採用しました。これは第2次世界大戦で焼け野原となった日本が、たちまちのうちに復興する様から学ぼうとした政策です。

 かつて読んだソニーの盛田昭夫元会長の本に描かれた、日本国民の強い愛国心と犠牲を払っても復興にかける献身的な姿は、私に深い感銘を与えました。労働者は支給される米と醤油だけで一生懸命働き、近代的な産業を育てるため寝る暇を惜しんで技術を磨いていったのです。

 日本人の中でも私がとりわけ尊敬するのは、戦後の日本を築いた盛田昭夫氏と松下幸之助氏です。いずれも先見性を持ち、パイオニア精神と失敗を恐れずに挑むチャレンジ精神、そして独自の考えとやり方で技術革新を生みました。さらには日本の経済成長を助けるマネージメント能力を兼ね備えていたのが、彼らのすばらしいところです。

 私が初めて日本を訪れたのは1961年、家族旅行でのことでした。当時の日本はまだ復興途上で、あちらこちらに爆弾による破壊の跡が残されていました。それでも、大阪では水田の真ん中に建つ松下の工場が私の度肝を抜き、オリンピックの準備中の東京では、日本橋の上に高速道路が建設されつつあるのを目にしました。

 このとき、私は日本と日本人のダイナミズムを体感したのです。人々が国の再建と経済を発展させるために献身的に尽くす光景は、今もまぶたに焼きついています。その後も訪れるたびに発展していく日本の姿を見てきたからこそ、首相になったとき私は日本と日本の人々から学ぼうと思ったのです。

 もっとも注目したのは、職業倫理観と職場での規律正しさによって、品質の高い製品をつくりあげるという姿勢でした。

 戦前の日本製品は「安かろう悪かろう」の代名詞でした。しかし戦後は品質の高い製品を次々に生産し、日本は国際社会で大きく成功しました。労働者は職業倫理観が優れていて、管理能力も高い。多くの国民が戦争で命を落としましたが、残された者が立ち上がり、新しい産業を興し、日本はすばやく発展していきました。

 電子産業の革命を起こしたソニーもその一社で、すばらしい技術でテープレコーダーを生み出しました。松下は戦後再建し、多くの大企業が次々と復活しました。米占領軍は財閥を解体したけれども、新しい形態の会社が次々と生まれていったのでした。

 日本の大企業のシステムは、欧米の会社のシステムとはずいぶん違っていました。会社同士は競争しても、会社は社員の面倒を見る。終身雇用という形態は、西側諸国にはないものでした。社内で従業員による混乱は少なく、労働組合によるデモも就業時間外に行われたため、生産活動には支障を来さなかったのです。

 多くの製品が生まれ、輸出され、外貨を稼ぎ、結果として日本は大きく発展しました。私たちが日本からコピーしたかったことは、日本型システムなのです。国を発展させるための政府と民間企業の緊密な関係を、私は「日本株式会社」と呼んでいます。私たちはこの日本から学ぶことで、他の発展途上国に比べて早く発展することができました。

 東南アジアをはじめとしたアジアの近隣諸国もまた、日本とともに働き、日本の繁栄と技術から学びたいと思っているのです。日本の新しい技術を学ぶことによって、域内全体が繁栄することは間違いありません。

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