もはや宇宙レベルの美女「菜々緒」に期待のMissデビル(TVふうーん録)

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「角度によって顔が百八十度変わる」三大女優がいる。絵に描くのがすごく難しい。CMに最適な、とても愛らしい顔になる瞬間と、映画「アバター」的に見える瞬間と。魔の角度を持つのが、南果歩、夏菜、そして今回俎上に載せる菜々緒である。

 八頭身、いやもしかしたら九頭身かもしれない菜々緒が、画面上で長い脚を惜しみなく、伸び伸びとさらすのが「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」だ。

 すでに各局ドラマで悪女役をイヤというほど演じてきたので、今さら悪魔とドヤ顔で言われても。百も承知、新奇性はあまりない。

 そもそも驚嘆の小顔と、太ももとふくらはぎが同じ細さの長い脚は、悪魔というよりも地球外生命体仕様。地球という星にとどまらないユニバーサルなデザインは、ピクサー映画のヒロインになれそうな勢いだ。

 でも、適役だと思う。演技力よりも外見重視。あれだけのピンヒールとミニスカートを颯爽と履きこなし、無表情で淡々と人心を掌握していくフリーの人事コンサルタントは、人間らしさを著しく欠いたほうがぐっと引き締まるもの。

 老舗の損害保険会社に晴れて就職できた青年(佐藤勝利)を待ち受けていたのは、非情かつ非常識の域に入る新人研修合宿だった。

 最初に書かされたのは退職願。新入社員に退職願というのは、覚悟を決めさせるいいアイデアだと思っちゃったけれど。結婚するときに離婚届を用意しておくのと同じ感覚ではないかしら。まあ、それはさておき。

 過酷なトレーニングをはじめ、無意味な穴掘り&穴埋め、仲間の弱点や短所をお互いに書かせ合うなど、菜々緒は独自のドSメソッドを新入社員たちに課す。しかも、50人を10人に絞るという前代未聞の研修に。

 菜々緒の起用に反対していた人事部長の木村佳乃は、穏健&人情の会長派閥。西田敏行演じる会長は会長室を私物化&緑化。カフェか。外資に食い荒らされとる日本の保険業界を、こんな会社が生き抜けるとは到底思えない。ゆるさと甘さを感じる。視聴者の私ですら。

 事実、会社自体が実は業績悪化で粉飾決算という瀕死の状態。菜々緒の行動は非人道的だが、それなりの理由がある。菜々緒を利用するのが、反会長派の船越英一郎。そう、これ、一応企業モノでもあるのだ。

 もうね、菜々緒にはビシバシやってほしい。ハイキックとか指示棒で机をバシっと叩くとか壁ドンとか、わかりやすいギャグもどうぞご自由に。いじめられる佐藤勝利がホントにビビってるから。小動物のように。

 ひとつだけ不安なことがある。初回の冒頭。菜々緒の過去を想起させる映像が一瞬だけ流れた。「あ、菜々緒にはなんらかのトラウマがあるんですね。冷酷非情な行為の裏には、悲しい過去とか記憶喪失とか多重人格とか、日テレ系ドラマが好きそうなあんこが仕込まれてるんですね」と察知。

 一瞬「家政婦のミタ」がちょいよぎる。あれ以上に衝撃の展開あるいは納得のいく結末を用意してるんだよね? 菜々緒の中途半端な善人化だけはやめてね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している

週刊新潮 2018年5月3・10日号掲載

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