野心? 孤独? 本音を見せない内野聖陽 「ブラックペアン」第3話
二宮和也主演、竹内涼真や内野聖陽らが脇を固めることでも、放送前から注目度の高かった日曜劇場「ブラックペアン」。視聴率、視聴者満足度ともに好調であり、話題性は今シーズンナンバーワンと言える。
出世に興味がないが技術は超一流の、医局の一匹狼である外科医・渡海征司郎(二宮和也)。本作は、佐伯清剛教授(内野聖陽)および、渡海のもとで働く研修医・世良雅志(竹内涼真)のモノローグを交えながら語られる。
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第3話は、渡海と高階権太(小泉孝太郎)による最新医療機器を使用するスナイプ手術の同時執刀の様子が描かれた。患者は、厚生労働省次期事務次官候補である有力者の息子・田村隼人(高地優吾)、そして佐伯が独自の技術「佐伯式」で執刀をおこなう予定であったはずの楠木秀雄(田崎真也)であった。
田村については、もともと肥大型心筋症を患っており、スナイプ手術には適合しない身体であった。高階と世良の研究、また渡海の凄まじい観察眼によって田村はスナイプ手術での早期回復をめざすことになる。
また楠木については、田村の手術中に心タンポナーデ(心臓と心膜の間にある心膜腔に何らかの原因で液体がたまり心臓の動きが妨げられること)を起こしてしまい、佐伯が学会で不在の中、急遽高階によるスナイプでの手術がおこなわれたのだった。渡海と高階、相反する思いを抱くように見える者同士が、連携してふたりの命を救った印象深い回だった。
リアリティとフィクションのバランス
さて、今回は放送時間のほぼ半分を手術室での描写に費やすという、制作陣の医療ドラマへの熱さが伝わるものだった。手術室に入る医師、看護師たちは当然マスク、帽子、スナイプ手術であれば重厚な鉛エプロン(X線照射を行う手術であるためだろう)を着用し、素顔はほとんど見えない。出演俳優の容姿を堪能するという本来のテレビドラマのひとつの楽しみ方に風穴をあけるような、チャレンジングな精神を感じる。
もちろん、超一流の手術職人である渡海のような医師が実在する可能性は低いので、描写にはフィクションが大いに混じる。しかし、「リアルな手術室」と「フィクショナルな外科医」の融合がこのドラマの見所としてつくられているように思われる。
佐伯教授の思惑とは?
今回は、「神の手」と称される佐伯にフォーカスを当ててみたい。帝華大学の西崎啓介教授(市川猿之助)のインパクトファクターのために論文を執筆している高階に、佐伯は「うちに来ないか?」と言い、論文の末尾に自分の名前を書けとささやく。それは西崎を裏切り、東城大学に付け、という誘いであった。
佐伯を演じる内野聖陽の表情には、権力争いというゲームを楽しんでいるような時と、すべて先を見通して誰にもそれを言わずにいる孤独な人間の二面性を感じる。ぷっくりと小ぎれいな西崎を演じる市川猿之助に比べ、無精髭を生やしているのは、他人に自分の考えを悟られないよう、常に先手を打ちながら行動するしたたかな人物の役作りを感じる。
しかし、そのしたたかさはただ権力を握りたいがゆえのものなのか? 権力のみを追い求める人間は、それ自体が目的化し、もっと泥くさく、時にみっともなくすら映るものだ。佐伯には、それがない。もしかしたら佐伯は、渡海よりも孤独な外科医なのかもしれない……。そう思わされる何かが、内野の表情には秘められている。たとえ華やかなパーティでスピーチをしている時も、誰にも心は許していない。教授室でひとり、黒いペアンを眺めている時に彼が果たして何を考えているのか。明かされるのはまだ先のことになりそうだ。
謎のレントゲンがついに……
研修医・世良も、着々と医師としての覚悟を決め、成長を遂げている。まだまだ渡海に振り回される日々が続くだろうが、第1話、第2話に比べて格段に頼もしさが上がっている。これからの世良の成長も楽しみだ。
しかしラストシーンで、これまでたびたび渡海が眺めていた、ペアンの映り込んだ謎のレントゲンを看護師・花房美和(葵わかな)がついに発見してしまう。渡海のプライベートの鍵を握る唯一の手掛り……。若さゆえに実直さを隠せない花房は、これからどのような行動に出るのだろう。総力を上げて撮影されているであろう手術シーン、それに対して決して派手になりすぎない俳優たちの演技の妙、登場人物たちの心理が複雑に絡み合うストーリーの運び。一瞬たりとも目が離せず、食い入るように観てしまうのだ。