「南北首脳会談」を異色の在日脱北者が読み解く ウルトラCは“米軍の北朝鮮駐留”?
韓国国民のフラストレーション
だが日本国内では、むしろ冷静に受け止められている。「本当に非核化なんて可能なのか?」、「北朝鮮の宣伝に、韓国が協力してしまったのではないか?」と不安視する意見も決して少なくない。
首脳会談の5日前にあたる4月20日、1冊のノンフィクションが日本国内で上梓された。タイトルは『跳べない蛙 北朝鮮「洗脳文学」の実態』(双葉社)。著者は金柱聖(キム・ジュソン)氏だ。北朝鮮に関する書籍は相当数が出版されているが、やはり金柱聖氏の経歴はユニークと形容して差し支えないだろう。
金柱聖氏は日本の関西地方に生まれ、70年代に朝鮮総連幹部だった祖父母と共に北朝鮮に“帰還”を果たす。“地上の楽園”と教えられてきた祖国の現状は、ご承知の通りだ。在日朝鮮人に対する差別と、総連幹部の孫という“武器”との間で葛藤しながら、祖父母を喪った金柱聖氏は、苦労して同国の師範大学を卒業する。そして、大学講師を経て北朝鮮の作家同盟に参加。宣伝扇動のプロとして、憧れの平壌生活を実現するため、本人曰く「洗脳文学」を執筆するようになるものの、2009年に脱北――。
そんな金柱聖氏が、なぜ脱北を果たしたのかは、ぜひとも本書をお読みいただきたい。この記事では、金柱聖氏がどのように南北首脳会談を受け止めたのか、そのインタビューを紹介する。金柱聖氏は現在、韓国のソウル在住だ。記者は国際電話を使って日本語で質問し、金柱聖氏も極めて流暢な日本語で回答した。
「南北首脳会談の様子はテレビの生中継で見ました。極めて北朝鮮的な、劇的な演出による宣伝効果が、印象に残りました。韓国側もそれを承知の上で、一歩引いたのではないでしょうか。韓国社会における保守派と革新派の対立は、根深いものがあります。ご存じの通り、前の朴槿恵(パク・クネ)政権は保守派です。反共政策を重視し、南北国交は膠着状態に陥りました。これに対する韓国有権者のフラストレーションは、やはり大きかったのでしょう。南北のトップが抱きあうという“雪解け”の報道に快哉を叫ぶ韓国国民は、相当な数に達したということだと思います」
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