日本人の良識としての麻(大麻)栽培

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【筆者:若園和朗・日本麻協議会事務局代表】(詳細プロフィールは本文末尾に)

 先日、日本の麻(大麻)の伝統継承を求める私たちにとって嬉しい知らせが届きました。三重県が「伊勢麻振興協会」に対して神事に使う大麻の栽培許可を出したというニュースです。

 前年の申請では許可されませんでしたが、防犯対策を充実させたことや使用する神社を限定したことなどを踏まえ、今回は「伝統継承など合理的な必要性がある」と判断されたと報道されました。(注1、本文末尾に、以下同)

 大麻について、逆風となる悪い出来事が続く中、勇気をもって許可に踏み切った鈴木三重県知事と県関係者の皆様に感謝を申し上げると共に、困難を乗り越え粘り強く許可申請を申し出た「伊勢麻振興協会」に敬意を表します。

区別しないことの不合理

 さて、皆さんもご存じのように大麻は、ともすると乱用される植物です。しかし、日本で古来より栽培されている大麻は、有害物質であるTHCの含有率が低い乱用できない品種だと言われています。そのため、日本人は戦前まで乱用することなく普通の作物として生活に役立て、素晴らしい文化を築いてきました。(注2)

 ですが、法的、制度的に、また一般常識的に有害な大麻と無害な大麻は区別されておらず、それが元で混乱と不合理が生じています。

日本の麻を貶める人々

 その混乱に拍車をかけるのが、マリファナ愛好家などと呼ばれるTHCの濃い大麻(以下「マリファナ」と表記)の吸引などを正当化しようとする人たちの言動です。そうした人たちは、無害な日本の麻とマリファナを敢えて混同させ、マリファナには害が無いかのような印象操作をしています。更に困るのは、こうした人たちの口車に安易に乗せられてしまう人々が、少なからずいることです。

 もちろん、THCを多く含むマリファナには深刻な害があります。

深刻なマリファナの害

 THCは、神経などの働きを調整する内因性カンナビノイドシステムと呼ばれる仕組みに作用し、正常な精神や神経などの機能を攪乱する言わば精神異常誘発物質です。

 マリファナ愛好家は、マリファナを吸うと「リラックスできる。音や色が美しく感じられ多幸感を得られる」などと言いますが、これは主にTHCによる影響です。こうした主張は、どれも主観的な本人の申告に基づくものであることに注意を払う必要があります。客観的に証明されているのは、認知や記憶の機能が低下すること。ここまで言えば、賢明な読者ならマリファナを禁じなければならない理由が十分にお分かりのことと思います。

 賢明であれば、薬物で一時的にリラックスした気分になったとしても、いずれ破綻を招くと見通しを持つことができるでしょう。また、薬物で幸せを感じること自体避けるべきだとも考えるはずです。幸せとは人生に真剣に向き合うことで得られるもので、薬物に頼るまやかしの幸福にかまけていては、真の幸福が逃げていくと判断するでしょう。

 マリファナは、交通事故の原因になり、青少年が常用すれば知能低下を招き、成人でも精神病の発症リスクを高めるなど個人の健康や社会の安全に対して重篤な害を及ぼす薬物です。(注3)(注4)

 マリファナの恐ろしさは、その害を本人が自覚できないこと、それどころか良いものと感じてしまい社会に広めようとする人たちまで現れることです。

良識としてのマリファナへの対応

 残念ながら、薬物乱用防止政策の失敗で、今やマリファナは世界で最も乱用される薬物となっています。例えばアメリカでは、4割以上の人が経験者です。(注5)

 そのためマリファナの非犯罪化や合法化の動きも生まれています。しかし、それは蔓延してしまったマリファナの管理をしやすくし、害を減らすための苦肉の策であるということは、良識のある人には理解できるでしょう。

 わが国は、他国に比べ違法薬物の蔓延率が桁違いに低いクリーンな国。従って、今後もマリファナ乱用には厳罰をもって対処し、蔓延の芽を摘んでいくことが大切でしょう。

日本の麻を守るために

 日本の麻の伝統保護や継承、または産業用大麻の振興においては、上記の事項を充分踏まえて行う必要があるでしょう。つまり、THCの含有率を元に品種管理をすることはもちろん、マリファナと日本の麻は遺伝的成分的に違いがあり、日本の麻は無害な大麻であることを周知することが大切です。合わせて、歴史的にも乱用してこなかったことを誇りと感じられるように啓蒙するのがよいでしょう。

 2年前に鳥取で起こった、新規の大麻栽培免許者がマリファナを不法所持し逮捕された事件の教訓も生かし、マリファナ愛好家を近づけない手だてを講ずることも必須です。(注6)

 また、法的制度的に無害有害の区別ができるような体制づくりも求めていかねばなりません。

 更に、日本の麻の再興がマリファナ容認や解禁の動きにつながらないように充分配慮することも必要です。

 伊勢麻振興協会の取り組みが実を結び、健全な日本人と麻との関係が取り戻されるよう皆様のご理解と応援をお願いします。

【参考】

(1)伊勢新聞2018年4月6日「三重県 神事大麻栽培を許可」

(2)九州大学薬学部 故西岡五夫名誉教授 大麻の研究(1975)

(3)日経サイエンス2013年5月号「マリファナはきっぱり有害」 

(4)AFPBB News2010年2月28日「大麻の長期使用、精神病に関連」

(5)厚労省「主要な国の薬物別生涯経験率」 

(6)産経WEST 2016年12月29日「大麻で町おこしは大ウソ!?」 

(本稿は『MRIC』メールマガジン2018年4月25日号よりの転載です)

【筆者プロフィール】

2011年、筆者の住む某県A町では祭礼のために栽培していた大麻の盗難事件が発生し、当局より栽培を禁じられ祭礼を続けることが困難な状態に。それを受け、大麻栽培復活のための活動を展開。その活動を通じて日本の大麻の窮状を知る。2014年より「日本麻協議会」を立ち上げ、わが国の大麻を守る活動を開始。現在、「日本麻協議会」事務局代表。ほかに「難治性疼痛患者支援協会ぐっどばいペイン」代表理事。1956年生まれ。

医療ガバナンス学会
広く一般市民を対象として、医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から解決し、市民の医療生活の向上に寄与するとともに、啓発活動を行っていくことを目的として設立された「特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所」が主催する研究会が「医療ガバナンス学会」である。元東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏が理事長を務め、医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」も発行する。「MRICの部屋」では、このメルマガで配信された記事も転載する。

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Foresight 2018年5月7日掲載

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