カラテカ・矢部太郎『大家さんと僕』手塚治虫文化賞受賞と「週刊新潮」連載開始で“マンガ道”を語る。
マンガ原作者の“大家”が太鼓判
――マンガを描くきっかけが、大家さんと京王プラザホテルでお茶を飲んでいたら、マンガ原作者の“大家”である倉科遼さん(67)に偶然、出会われた。お二人の関係に倉科さんが興味を持たれた。これが原点だと聞いています。
矢部:一緒に鹿児島へ旅行したことなどを説明すると、倉科さんが「ロードムービーを作ろう」と盛り上がられて、僕が原案を出すことになったんです。でも原案なんて初めての経験なので、「ヤバイ絵だなあ。これ、お見せするようなものじゃないな」と悩みながらも、「こんなエピソードです」と4ページぐらいのマンガにまとめました。あくまで倉科さんが本物の原案を作るための資料、という気持ちだったんですけど、倉科さんが「これはいい!」と気に入ってくださったんです。
――倉科さんは、ご自身もマンガ家ですが、マンガ原作家でもある。大ヒットとなった『女帝』シリーズや『嬢王」などの原作は、劇画調が大半です。正反対と言っていい矢部さんのマンガを評価した「目利き」ぶりには驚かされます。
矢部:あんなに凄い絵師の方々とお仕事をされているので、本当に自信になりました。「絵もいいよ、ヘタウマでいいよ」と褒めてくださるんです。実はヘタウマを狙ったわけではなく、ひたすら一生懸命に描いているだけなんですけど(笑)。
――倉科さんも文化人として、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属しておられる。だから矢部さんのマンガを評価されると、同社の出版部に推薦。それが「小説新潮」の連載に実現しました。
矢部:もう「吉本がこんなに早く動くなんて」と驚くほど、あっという間に連載が決まりました。倉科さんパワーのおかげだと感謝しています。
マネージャー:実際のところ、そんなこともないですよ。マンガの面白さもあったと思います。
矢部:いや、いや、いや、いや、いや(笑)。僕のような底辺芸人が(一同爆笑)出版部に持ち込んだとしても、たかが知れていますよ。
週刊新潮は大家さんの購読誌
――矢部さんは漫才だけでなく、俳優として舞台にも出演されます。日々の表現活動に、マンガという新しい創作ジャンルが加わったことは、どう捉えておられますか?
矢部:やっぱり僕、喋るのは得意じゃないんです(笑)。インタビューは喋らなければ進まないから頑張ります。でもテレビ番組の収録で、例えば大勢の芸人が出演したりすると、気が小さいので、「皆さんが僕の話を聞いている」と意識し過ぎちゃうんです。あと「僕が喋らなくても番組は成立するよなあ」とか思っちゃうこともあります。でもマンガなら、僕が描いたものを皆さんが色々な判断で読んでくれます。それほど気を使わなくていいので、気持ちが楽なんです。
――相方の入江慎也さん(41)も「友達5000人芸人」として異彩を放っておられます。矢部さんのマンガが高く評価されることを、喜んでおられるのではないですか?
矢部:互いに最初から今の状態を目指していたわけではないので、不思議な感じです(笑)。入江くんは喜ぶというより、純粋に「チャンスだ」としか考えていないですね。マネージャーに「この『大家さんと僕』をフックにして、コンビでテレビに出る」と宣言したそうなので(一同爆笑)。
――いよいよ週刊で連載が始まりますが、どんなお気持ちですか?
矢部:締切の早さに驚いています。メールでマンガを送ると、返信に次の締切が書いてありますからね。でも「他のマンガ家の皆さんも、こうやって描いているんだなあ」と尊敬の念を新たにしたり、テレビ局のスタッフの皆さんのご苦労を再認識させられたりしました。何よりも「週刊新潮」は大家さんの購読誌なので(笑)、読んでもらえるのが嬉しいですね。皇室関係の記事が掲載された時など、よく雑誌を買いに行かされました(笑)。
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