漫画家・江川達也さんが語る「古地図」の魅力 『日露戦争物語』きっかけ

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 私の古地図好きの起源を辿っていくと、遠く幼稚園時代に行き当たります。自宅から幼稚園バスに乗って通っていたのですが、そのバスが名古屋城のお堀に沿って上って行く道を通るのです。当時はその道の途中に、名鉄瀬戸線の踏切があり、瀬戸線はお堀の中に入っていくように進む。

 この地形がダイナミックでかっこよく、いたく気に入り、幼稚園の砂場で何度も再現していました。

 ですが、親から借りた道路地図のそのあたりを開いて、愕然。高低差は描かれていないし、わかりやすくするために、道の太さなどが適当にデフォルメされている。実際にその地形を見たときの感動は一切ないんです。“これは実際と全然違うじゃないか”と。今考えれば当たり前の話ですが、それで市販の地図を忌み嫌い、自分で描いていました。

 そんな私の地図嫌いが変わったのは、小学校4年生の頃。伊能忠敬が描いた、「伊能地図」と出会ったんです。あの海岸線の、緻密な美しさ……。現代に作られたものより、よほど美しいのです。ここで初めて、古地図の素晴らしさに気が付いたのです。

 ですが、本格的に収集し始めたのは、小学館の「ビッグコミックスピリッツ」誌上で、『日露戦争物語』の連載が始まった2002年頃。その中で、日清戦争を描く際に、資料として現在出版されている様々な文献を漁ったのです。が、どの本も正直、詳しくない。

 さらに資料漁りをして、最終的に行き着いたのが、明治時代に軍の参謀本部が編纂した『日清戦史』。この資料がすごくて、どの部隊がいつどこを移動し、何を食べたのかまで、つぶさに書かれているんです。

 この資料、戦地の地図もついていて。そこには部隊が駐屯していた場所はもちろん、等高線もきちんと描かれている。文章と地図を照らし合わせることで、まさにその地にいるような錯覚を起こすほど、リアルに日清戦争を感じられました。

 その後、松濤にある我が家の近所に、地図を専門に取り扱っている「日本地図センター」があることを散歩中に発見。そこには、日清戦争の地図と同じく、参謀本部陸地測量部が制作した明治時代の東京の地図が売られていたのです。

 それからというもの、地図センターに何度も通い、全種類揃えてしまいました。

 以来古地図を眺め、当時の東京の風景や地形を想像したり、地図の情報を頭に入れて散歩するように。また、手作りですから、担当者によって微妙に描き方が違っていて、そういう差異を見つけるのも楽しい。

 さらには、古地図を全てパソコンに取り込み、それらを繋げて、自分専用のオリジナル地形図を作り、ひとりで楽しんでいます。

 私が明治時代に生きていたら、間違いなく参謀本部の測量部に入り、地図作りに勤しんでいたんだろうなと思います。

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江川達也(えがわ・たつや) 1961年愛知県生まれ。愛知教育大学卒。84年、『BE FREE!』で漫画家デビュー。代表作に、『まじかる☆タルるーとくん』『東京大学物語』等。タレントとしても活躍。

週刊新潮 2018年3月22日号掲載

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