難治「すい臓がん」治療の最前線 三次元放射線ビーム、早期発見“尾道方式”

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10年生存率5%「すい臓がん」を生き抜く術(下)

 早期の状態では症状がなかったり、特有の症状が乏しいすい臓がんは発見された時点で手のほどこしようがないケースが多い。「がんの王様」と呼ばれるゆえんだ。10生存率でみると胃がんと大腸がんが7割近いのに対し、すい臓がんはわずか5・1%である。

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「7〜8年前まですい臓がんは罹患率と死亡率がほぼ同じでした。つまり、すい臓がんになれば、全員が死んでしまうことを意味していたのです」

 そう話すのは、富山大学大学院消化器・腫瘍・総合外科の藤井努教授である。実際、医師の世界でも「すい臓がんに有効な抗がん剤はない。患者を診る時は神頼みしかない」という時代がしばらく続いたのだ。

 ところが、01年から「ゲムシタビン」、さらに06年から「S―1」といった抗がん剤が登場してくる。これが、すい臓がんの治療を大きく変えた。

 一般に抗がん剤は手術の後に、取り残したがん細胞を叩くために使うと思われがちだ。一方、抗がん剤を先に使って手術可能なまでにがんを小さくしてから切除することを「コンバージョン手術」という。最近のすい臓がんの治療では、コンバージョン手術が行われることが少なくない。

 年間100件以上のすい臓がん手術を手掛ける静岡がんセンター肝胆膵外科部長の上坂克彦医師が言う。

「ここ数年の抗がん剤の進歩によって、手術できるかどうかのボーダーライン(切除可能境界)のがんを、手術に持ち込めるケースが目に見えて増えてきました。たとえば、S―1という抗がん剤を患者さんに術前投与し、さらに放射線治療も併用したところ、3分の2の患者さんでがんが小さくなって手術できるようになったのです」

 また、ステージIII以上のすい臓がんは、がん組織がすい臓から飛び出して、周囲の太い動脈に取りついてしまっている状態だ。抗がん剤は、こんな場合にも有効だという。

「すい臓の周囲の動脈を輪切りにして見た場合、その動脈の周りに、がんがびっしりと、こびりついた状態です。抗がん剤や放射線を使うと、そのがんが消えて手術できるようになるケースが増えるということです。飛躍的な進歩と言えるでしょう」(同)

 さらに、ここ数年、新しい抗がん剤も医療現場に登場している。

 前出の藤井教授が言う。

「5年前に『フォルフィリノックス』という新薬が出ています。これは抗がん剤など数種類の薬をカクテルにしたもの。また、3年前には『ナブパクリタキセル』という抗がん剤も使えるようになりました。実感として、この2つの薬が出てからは、すい臓がんの死亡率がかなり下がってきたと思います。かつて、宣告されたら“もって1年”と言われていた病気ですが、今はそれ以上生きる人が増えているし、“コンバージョン手術”で完治を目指すことも可能になってきました。私の感覚ですが、すい臓がん患者で改善の兆しが見える人の4割強は、コンバージョン手術の成果です」

 この、抗がん剤と手術の組み合わせで、すい臓がんが「普通のがん」になる日は来るのだろうか。

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