続編にクソ期待?! 見事な超絶技巧脚本「アンナチュラル」最終話

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 脚本家・野木亜紀子が手がける法医学ミステリー「アンナチュラル」。物語の構成の巧みさもさることながら、怒濤の伏線回収、先の読めないスピーディな展開で多くのファンを惹き付けてきた本作がついに3月16日、最終回を迎えた。

 物語は、架空の機関「不自然死究明研究所(UDIラボ)」が舞台。法医解剖医・三澄ミコト(石原さとみ)、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、所長の神倉保夫(松重豊)ら、死因究明専門のスペシャリストたちが活躍する。8年前に恋人を殺され、その解剖をおこなった過去を持つ中堂系(井浦新)、バイトの医学生、久部六郎(窪田正孝)ら魅力的な俳優陣が揃う。

 最終話は、中堂が追い続けてきた「赤い金魚」にまつわる殺人が、被害者26人にも及ぶという衝撃の事実をどう明らかにするかが70分拡大スペシャルで描かれた。かたくなに犯行を否認する高瀬(尾上寛之)と、ミコトたちUDIラボのメンバーの対決を、私も一視聴者としてひりひりする思いで見守った。

理想の上司としての神倉

 序盤では、週刊ジャーナルとの内通者が久部であることを見抜いていた神倉は、静かに久部に真実を問うシーンがまず見せ場であった。信じられないと言った表情で「ウソだよね?」と言う東海林と、目を伏せて黙るミコト、中堂。久部は自分が内通者であることを認め、申し訳なさを滲ませながら謝ることしかできなかった。

 最終回を通して光ったのは、上司としての神倉の存在感である。久部を感情的に責め立てることなく、しかし事実を明らかにする。第3話に引き続いて登場した検事の烏田(吹越満)が、高瀬を有罪にするために鑑定書の書き換えを要求してきた時は、ミコトの代わりに事実そのままの鑑定書を提出にゆき、「高瀬を有罪に出来なくてもいいんですか」と怒鳴る烏田に「それはそちらの仕事でしょう。責任転嫁しないでいただきたい」と言い放ち、部下を守った。

 良い上司というのは、仕事がデキる人間でもぐいぐいチームを引っ張る人間でもない。ここぞという時に、自身が責任を取り、決して部下を売らずに守り抜く人間のことだ。折りしも文書改ざん疑惑が新聞やニューストピックを賑わせる昨今、誰もがふてぶてしい政治家の姿にうんざりしている時に、終始本作の和ませ役に徹してきた神倉が上司としての見本の姿を見せてくれたことは感動的だった。

中堂の取った非情な手段

 連続殺人事件に、何かしらの形で関わってきたであろう、ジャーナリスト宍戸理一(北村有起哉)を毒物を使って追いつめた中堂の鬼気迫る様子は凄まじかった。麻酔薬を注射し、高瀬が真犯人である証拠を出させるために解毒剤と偽って猛毒のエチレングリコールを飲ませる。しかし連続殺人の証拠となる金魚柄のボールは宍戸の策略によって硫酸で溶かされてしまった。久部とともにそこに駆けつけたミコトは、何とか法律で高瀬を裁くように中堂に懇願する。

 中堂が宍戸を殺すつもりで遺体の処理を頼んでいた葬儀屋の木林南雲(竜星涼)が「はい、木林でーす♪」と軽やかにミコトからの着信に出るなどの様子は、重さ一辺倒にならない本作のポリシーを感じさせるものであり、木林の掴みどころの無さが最後まで徹底されていたのは好ましかった。木林の、開閉式のあの謎のサングラスは、彼の独特の浮遊感を表現する見事な小道具だったと言うほかない。葬儀屋という、生者と死者をつなぐ媒介者であった木林は、最後まで本作をふわふわと漂い、掴もうとすればすり抜ける、まことに魅力的な存在だった。

死者からのプレゼント

 最終話のゲストは、糀谷夕希子の父、和有(国広富之)だった。宍戸によって証拠のボールが溶かされ、失意に暮れていたミコト、中堂のもとにもたらされた情報とは、夕希子は日本で荼毘に付されることなく、アメリカで土葬されていたという事実だった。急遽神倉がアメリカに渡り、遺体を掘り起こしてUDIラボでの再解剖に至る場面のスピード感は、息もつかせぬ名演出であり「そう来たか……!」と膝を打った視聴者も少なくないはずだ。これまで、何度も遺体が火葬されてしまったことで悔しい思いをしてきたミコトたちが、最後の最後に夕希子の土葬の遺体から高瀬のDNAを検出する。そして、中堂が8年越しに、ずっと彼を犯人扱いしてきた和有と和解できたシーンはまるで死者である夕希子からのプレゼントのようだった。法医学は、未来のための学問。これはミコトの信念であるが、過去の死者を救い、同時に遺された人間の未来を照らすための学問であることが示される展開となった。

 第1話から登場した毒物が再登場したり「アメリカでは死者は土葬される」といった何気ない一言のひとつひとつ、全編を通して無駄のなかった脚本には舌を巻く。第3話では、女だからといって証言に立っても意見を聴いてもらえなかったミコトが、今度こそ法廷という場で中堂の無念を晴らしたこと。中堂の過去に対しても「同情なんかしない」と言い切ってきたミコトが、揺るぎない物的証拠とともに、幼少期に母親から受けた虐待を晴らす形で殺人を繰り返してきた高瀬に「心から同情します」と煽ってみせ、逆上した高瀬から「26人殺した」という自供を引き出した場面は圧巻だった。傍聴していた中堂の、やるせなさ、悔しさ、取り返しのつかなさ、そして勝利(しかし、何に対しての?)の複雑な表情も見逃せなかった。

 そして宍戸も殺人幇助で逮捕され、事件は幕を閉じた。これ、本当に70分のドラマ最終回なのか……? と、あまりの濃密さに圧倒されてしまった。

ついつい癖になる中堂の口癖……

 週刊ジャーナルと通じていたことが明らかになってしまった際には「すみません」と蚊の鳴くような声で謝罪するのが精一杯だった久部が、事件解決後に改めてアルバイトとしてUDIラボに戻ってきて「法医学者を目指したい」と大きな声で宣言したシーンはとても頼もしかった。「アンナチュラル」は、久部を演じた窪田正孝の新たな代表作として長く刻まれることだろう。窪田の、儚げで線の細い、しかし芯は強く、それゆえに老獪な大人たちに翻弄される役柄はまさに彼にしか演じることができないもので、久部という役に恵まれたことは窪田にとって実に幸運な出会いだったと感じる。

 ラストシーン、第1話の始まりと同じくロッカールームで天丼をかきこむミコト。これからも「不自然な死」の原因究明のために邁進していくであろう彼女たちの活躍が、続編として制作されることになるかは明らかになっていない。しかし、医学部を卒業した六郎の今後や、恋人の死の真相を知り犯人を裁くことに成功した中堂がどのような道を歩むのかを観てみたいと願っているのは、私だけではないはずだ。最後に、ついつい私のこのごろの口癖になっている中堂の決め台詞をお借りしてこの連載を締めくくりたい。本作の続編に「クソ」期待している!!

(西野由季子)

2018年3月23日掲載

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