「佐川、佐川」と呼び捨て 麻生財務相は重大な過ちを犯していた!

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敬語の専門家も誤用を指摘

 これにはメディアも世論も反応した。一例を挙げる。

「麻生氏『佐川が』『佐川が』 責任転嫁に躍起 国会審議」(毎日新聞電子版3月13日)

「『サガワが、サガワが』麻生財務相、佐川氏『呼び捨て』が議論 『罪人扱い』?『身内なら普通』?」(J-CASTニュース3月14日)

 J-CASTニュースの記事中には「ツイッターでは麻生氏への批判が上がる一方、上司と部下の関係なら呼び捨ては問題ないのではないかと、記事への疑問の声も上がっている」と紹介している。

 だが、既に佐川氏は財務省を辞めている。上司と部下の関係は解消されたわけだ。「辞任後の呼び捨て」は、どう考えても非礼であり、常識に欠ける。ある日本語の専門家が「政治的な議論に巻き込まれるのは嫌」という理由から匿名で取材に応じてくれた。

「佐川さんが財務省に勤務していれば、麻生さんは公の場で佐川さんについて言及する場合、呼び捨てにしなければなりません。上司が部下を呼び捨てにするという意味ではなく、身内の人間を外部に示す時は必ず呼び捨てにします。外部には『弊社の田中課長』ではなく、『弊社課長の田中』が正しい用法です。佐川さんなら『理財局長の佐川』や『国税庁長官の佐川』となるわけです。ところが佐川さんは、3月9日、マスコミの前で辞職を発表しました。麻生財務相は、12日の会見でも、14日の参院予算委員会でも、佐川氏を呼び捨てにしましたが、これは敬語の使い方として間違っていると言わざるを得ません。特に14日の委員会では、辞任の経緯を説明しましたから、完全におかしい。『佐川さん』では柔らかすぎるかもしれませんが、『前国税庁長官の佐川氏』か『佐川前国税庁長官』と表現すべきでした」

キャリア官僚も誤用

 一部からは「佐川氏を呼び捨てにすることで罪人という印象を強め、自分の責任を回避しようとした」と批判する声もあったが、先の専門家は「私は違う印象を持っています」と穏やかに反論する。

「何の証拠もありませんが、麻生財務相は佐川氏を、まだ自分の部下だと思っている意識が出てしまったのではないかと推測しています」

 この分析、正しさを裏付けるような麻生財務相の発言がある。先に紹介した参院予算委員会での質疑だが、麻生財務相の答弁には続きがある。それをご覧いただきたい。

「また佐川を退職させるにあたりまして、私のほうから佐川に対しては、今後とも捜査当局による捜査、いわゆる地検の捜査のことです、また財務省が行う調査等々に対して真摯に協力すべきこと、また捜査や調査の結果次第では、さらに重い懲戒処分に相当するという判断をせざるを得ないという可能性も否定はできませんので、従って仮にそうなった場合には退職後でも私の指示には従ってもらう、ということを申し渡し、佐川もこれを了解いたしております」

 麻生財務相の「退職後でも私の指示に従ってもらう」という発言は、確かに「お前は今でも俺の部下」という意識を誘発させやすいかもしれない。だが敬語の使い方を間違ったという事実は揺るぎない。

 どうしたって、総理大臣時代の「未曾有=みぞうゆう」発言を思い出してしまうが、もうしつこいだろうから止めておく。

 ちなみに、財務省のキャリア官僚も誤用をしてしまっている。詳細は割愛するが、太田充理財局長(57)が14日の参院予算委員会で、佐川氏について「佐川局長の関与の度合いは大きかった」などと、何度も「佐川局長」と発言したのだ。

 確かに受け答えを細かく見ると、「当時の局長」というニュアンスは感じられる。だが、あまりにも「佐川局長、佐川局長」と言うと、辞めていない身内の人間に敬称をつけているような印象を受けてしまう。

 重箱の隅をつつくわけではないが、やはり誤解を招かないようにするには「前局長の佐川氏」か「佐川前局長」と発言すべきだったのだ。

 現在、就活シーズン真っ只中なのをご存じだろうか。就活生で敬語の使い方に不安を覚えている人も多いだろう。だが、財務大臣と財務省のキャリア官僚も敬語の使い方を間違ったわけだ。まずは「学習院大学政経学部でも、東大法学部でも間違えるんだ」と安心していただき、反面教師としてフル活用してもらいたい。

週刊新潮WEB取材班

2018年3月20日掲載

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