志願者急増の「医学部」 その学費、将来性についての最新研究
西日本の国公立大を
志望大学を選ぶ際、医学部間の“力関係”も頭に入れておいたほうがよい。神経内科が専門の医学博士、米山公啓氏は、
「日本の医学部には、旧帝国大学医学部の教授が全国に派遣され、私立大学を傘下に収めていったという歴史があります」
と言って、続ける。
「日本の医学部は旧帝大医学部、その他の国公立大医学部、旧設の私立大医学部、新設の私立大医学部に分かれ、新設私大は学会の会頭の席などは回ってこないほど力が弱かった。いまは少しは出てきていますが、それでも数は少ない。都内の有名病院でも勢力分布があり、東大や慶應などの有力医学部から理事長や院長が派遣されることが多い」
試みに、都内の有名38病院の院長の出身大学を調べると、東大12人、慶應5人、東京医科歯科大4人、日本大3人、大阪大、防衛医大、東邦大が2人……という具合であった。
「私の母校の聖マリアンナ医大は新設医学部で、大病院の院長席はまずありません。同級生のほとんどは開業医で、うちの大学で教授だった連中も定年で退官後、大病院には行けず、みな開業医をやっています。医者の世界では、開業医は収入は高くても最も格下に見られていて、教授になれるのに開業医に、という選択肢はありえません」
米山氏はそう言って、次のように結んだ。
「卒業後、医学研究をしたいのであれば、やはり旧帝大の医学部などのほうが強みがあります」
逆に言えば、最初から開業医を志すのなら、実力に見合った大学に進めばよい、ということでもある。
ところで、つい東京に目が行きがちだが、医師で医療ガバナンス研究所の上昌広理事長によれば、
「4000万人以上の人口を擁する関東地方には、自治医大や防衛医大などの特殊なものを除き、23の医学部がある。一見、多いようですが、人口400万人の四国には4つの医学部があり、人口当たりの医学部数は関東の倍。また国公立大医学部に限ると、関東には筑波大、群馬大、千葉大、東大、東京医科歯科大、横浜市立大の6つしかありませんが、四国は4校とも国立で、人口に対する国公立大医学部数では、7倍もの差があります」
これでは、関東の国公立大医学部が狭き門になるのは当然である。だが、
「四国はもちろん、中国地方や九州にもレベルの高い医学部はいくつもある。医学研究のレベルも、東京が一番高いかというとそうでなく、関西や九州のほうが高い。ですから関東の高校生も、西日本の国公立大医学部を目指すとよいとアドバイスしたいですね。医学部を卒業すると、大半は総合病院などで勤務医として働くようになると思いますが、首都圏の私立病院はどこも青息吐息。診療報酬は全国一律なので、地価や物価、人件費が安い地方の総合病院のほうが経営が安定するのは当然です」
そして、上理事長はこう提言する。
「親御さんが賢くなること。東京の医学部がよいと思いがちですが、地方の国公立大医学部は、偏差値は低く教育レベルは変わらないので狙い目です。また関東の17の私大医学部のうち8校が単科大学ですが、若いうちは、学費3000万円を捻出できる家庭で育ち、医師をめざす若者だけが集まった環境よりも、多様な背景や目的をもった仲間の間で揉まれながら勉強するほうがよいと思うのです」
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