香港議会「補選」:中国の圧力をギリギリ押し止めた民主派勢力の「明日」
香港の立法会(議会)の補欠選挙の投開票が3月11日に行われた。空席の4議席を争ったもので、民主派勢力の候補が僅差で2議席を獲得。2014年の「雨傘運動」以来若者に広がったアンチ中国などの政治意識の高まりに対して強い危機感を抱き、香港の民主化にかつてない攻勢をかけている中国政府の圧力を、かろうじて民主派勢力が押し止めた形となった。
香港の選挙は変則中選挙区型なので基本的に複数の議席を争うものだがが、補欠選挙は「建制派」と呼ばれる親中派と、民主派による事実上1対1の対決構図となった。
香港の選挙の投票時間は、午前7時半から午後10時半までと長い。12日未明にかけて進んだ開票作業の結果、民主派勢力では、香港島選挙区の区諾軒氏と、新界東選挙区の范国威氏の当選が決まった。一方、建築などの職能別選挙区と九龍西選挙区では、民主派勢力の候補がともに落選した。
香港の世論はおよそ6対4ぐらいの割合で民主派への支持が強く、その構図が現れやすい補選では過去民主派勢力が9勝0敗だったことと、補選で争われた4議席がすべて民主派勢力のものだったことを考えれば、親中派の勢いが強まったことは間違いない。ただ今回は、投票率が2016年の立法会選挙よりも15ポイントも下がって43%にとどまるなど低迷し、動員を得意とする親中派に有利に働いたことも考えると、民主派が健闘したとも言える。
「資格剥奪」に「誹謗中傷」
今回の補欠選挙を象徴する言葉は「DQ」だった。資格剥奪あるいは喪失を意味する英語の「disqualified」の略である。
雨傘運動以来、1国2制度の形がい化への懐疑とともに、「香港は香港で、中国とは違う」という香港主体性意識の高まりが顕在化した。そのなかで、従来の民主派だけでなく、「本土派」「自決派」「独立派」と呼ばれる勢力が台頭し、香港政治の新しい一大勢力を形成しつつあった。
そうした新勢力を潰すために用いられた手法が「DQ」だった。2016年の立法会選挙で当選した自決派など6人の議員に対して、立法会の宣誓式のやり方が不適切であるとして、議員資格剥奪の訴えを香港政府自らが起こし、雨傘運動で活躍して当選したばかりの議員が、次々と資格を剥奪された。
それだけではない。今回の補選にあたり、資格剥奪をうけた羅冠聰氏のあとをついで立候補を届け出た、同じく雨傘運動出身者の政党「デモシスト(香港衆志)」の周庭(アグネス・チョウ)氏についても、「主張が香港基本法に反している」という曖昧な理由で立候補資格が取り消されたのだ。
立候補する権利すら奪われるという状況に、一時、香港の民主派勢力も意気消沈するかと見られたが、「この選挙は反DQの戦い」(周氏)と位置づけて選挙戦を戦った。今回は親中派も、議席獲得のチャンスがあると見て力の入った選挙運動を展開。投票直前まではどちらが勝つかわからないとの見方も広がっていた。さらに投票直前になり、民主派勢力の候補者に対する「香港独立派」といった誹謗中傷が、親中派メディアを中心に展開された。
特にひどかったのは、香港島選挙区で当選した区氏に対するものだった。選挙前、千葉県のある市議会議員に面会した際に勝利祈願のダルマを贈られたことに対して、『文匯報』や『大公報』などの親中派メディアが、「外国のために働いている」「(市議が台湾との交流に熱心な人物だったことから)台独派と結託した香港独立派」などと、ほとんど事実無根のフェイクニュースまがいの内容の記事で、新聞の1面トップを使った大掛かりなネガティブキャンペーンを展開したのである。
「反親中」でまとまれるか
今回の結果について、補選ということもあってかろうじて民主派勢力でまとまることができたが、最近は民主派勢力の間で路線をめぐって意見の隔たりが深まり、一部の民主派は親中派に取り込まれつつあるとの懸念も生じている。また、雨傘運動のあとに勃興した本土派、自決派、独立派の関係も複雑かつ対立含みで、親中派に比べ団結力では大きく劣っている。
香港政府、立法会で多数を占める親中派議員、そしてその背後にいる中国政府を相手にこれからも困難な戦いを戦い抜くためには、「反親中派」の一致した運動が求められる局面に入ったことも印象づける選挙となった。(野嶋 剛)
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