新聞社崩壊で「勝ち組」になるのはどこか? 経営体力採点でわかった「強い地方紙」
経営体力を採点
部数減や「偏向報道」への批判もあり、新聞というビジネスモデルに対しては「オワコン」といった批判がされることも多い。朝日新聞販売局の元部長である畑尾一知氏は、新著『新聞社崩壊』の中で、2015年から2025年までの10年間で新聞の総部数が30%減る、というシミュレーションを示したうえで、生き残りに向けた提言もおこなっている(以下、同書より抜粋・引用)。
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もっとも、経営という観点でとらえた場合には、全ての新聞社が同じ立場にいるわけではなさそうだ。畑尾氏は、同書の中で、全国紙と地方紙の「経営体力」を算定して公開している。詳細は省くが、算定にあたっては「社員一人当たり売上」「自己資本比率」、畑尾氏が考案した「残紙率」(販売されずに余る新聞の率)、それぞれに評点を与えるという方式を取っている。
たとえば自己資本比率を見た場合、日経と読売は70%以上、朝日も30~60%の間だが、毎日は6%、産経は12%なので、評価は低くなる。この場合、日経と読売は「5点」、朝日は「3点」、産経と毎日は「1点」となる。
3つの分野の評点の合計が高い方が経営体力がある、というのが畑尾氏の見解である。
そして、この算定の結果、見えてきたのは「勝ち組」「負け組」に分かれるという事実だ
まず全国紙でいえば前者は「日経、読売、朝日」であり、後者は「毎日、産経」となっている。同書では日経と読売が「13点」、朝日が「12点」なのに対して、毎日が「6点」、産経が「5点」とされている。
こうした全国紙の勝ち負けについては、比較的知られているところだろう。ABC協会の部数などが公開されているからだ。
地方紙トップはどこか
一方で、多くの地方に住む人にとっては身近な情報源である地方紙については意外と知られていないかもしれないが、畑尾氏は沖縄を除く全国地方紙に対しても同じ方法で「経営体力」の算定を行なっている。
その結果、「12点」以上となったのは「北海道新聞」「静岡新聞」「信濃毎日新聞」「中日新聞」「中国新聞」「高知新聞」「熊本日日新聞」の7紙。なかでも静岡新聞は「14点」と全国紙をも抜く数値を示している(同書で触れている「負け組」については、かなり複雑な要素もあるので、ここでは割愛する)。
これは前述の「社員一人あたり売り上げ」「自己資本比率」などが高い水準であることが大きな要因だが、見逃してならないのは、新聞そのものの商品としての「強さ」である。静岡新聞はページ数のわりに価格がかなり低く抑えられているのだ。
畑尾氏は、次のように指摘している。
「静岡新聞は2014年4月の消費増税の際、価格を据え置いた。その後、2017年4月に3年遅れで増税分80円を値上げして2980円となった。静岡のページ数は、朝刊32、夕刊10、合わせて42ページ。
それに対し朝日は朝刊36、夕刊12、計48ページ。読売は朝刊39、夕刊15、計53ページである。静岡の紙面量は朝日と読売にやや遅れをとっているが、大差ではない」
ページ数は大差ないにもかかわらず、全国紙と比べると、価格は1000円以上静岡新聞のほうが安い。つまり消費者目線でいえば、かなり「お得感」があり、それが同紙の強さにつながっているということになる。
新聞の危機が論じられる際、よく俎上に上がるのは「紙面の劣化」といったテーマになりがちである。しかし、実のところ新聞も商品である以上、コスパをないがしろにしていいはずがない。「いい記事を書けば読者はついてくる」というのはむしろ時代錯誤ではないか――そんな視点を同書は提示しているのである。