49年で幕を閉じた「政治記者」のオアシス「やま」

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「昔はあの喫茶店を溜まり場にしていたよ」

 古参の政治部デスクがそう漏らすのは、首相官邸の向かい側にある国会記者会館1階の喫茶店「やま」のことである。

「会館は新聞など152社が加盟する国会記者会の各社が常駐。政治部記者の拠点です」(同)

 1969年に会館が完成したと同時にオープンし、以来、記者が食事や喫茶、取材に使う定番のお店だった。現在、70代となった店主が切り盛りしていたが、2月末に閉店。その店主が語る。

「共同通信の記者だった父が、ここが出来た時に入らないかと言ってくれて喫茶店をオープンしたんです。このあたりは小高い丘になっているので、昔は国会のことを“やま”と呼んでいたそう。それが店名の由来です」

 もっとも繁盛したのは、田中角栄総理の時代だった。

「原稿を書く人、情報交換する人、ひっきりなしに出入りしていました。配達も多かった。旧官邸の時代には内閣改造になると、官邸前に各社がテントをはっていて、ポットのコーヒーを届けたりしていました」

 意外な人物が訪れたこともあったという。

「35年前に野坂昭如さんが選挙に出られた時、政見放送前にいらっしゃいました。ウィスキーのトリプルをストレートでお飲みになって。“飲まないと話せないんだ”と言っていました」

 近年は利用客の減少が続いていた。

「最近は記者さんも自販機で買う方が増え、コーヒーを飲む機会が少なくなりました。やめないで、という声もあったのですが……」

 政治報道を支えたオアシスだった─―。

週刊新潮 2018年3月8日号掲載

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