松重豊が語る「死」に涙 人が最期に帰る場所とは「アンナチュラル」第8話
「逃げるは恥だが役に立つ」(2016)で知られる野木亜紀子が手がける法医学ミステリー「アンナチュラル」。物語の構成の巧みさもさることながら、先の読めないスピーディな展開で多くのファンを惹き付けている。
物語は、架空の機関「不自然死究明研究所(UDIラボ)」が舞台。法医解剖医・三澄ミコト(石原さとみ)、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、所長の神倉保夫(松重豊)ら、死因究明専門のスペシャリストたちが活躍する。ラボのメンバーでひときわ異彩を放つ、冷徹だが優秀な中堂系(井浦新)、バイトの医学生、久部六郎(窪田正孝)ら魅力的な俳優陣が揃う。
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第8話のタイトルは「遥かなる我が家」。久部と実の父親・俊哉(伊武雅刀)との確執、雑居ビルの火事での遺体の身元確認、ゴミ屋敷に住む老人(ミッキー・カーチス)と神倉の交流といった複数の物語が走り「人々が帰るべき場所、迎えてくれる人がいる場所とはどこなのか」という問いが立体的に描かれた。
とある雑居ビルで火災が発生し、10体もの身元不明の遺体がUDIラボに運ばれてきた。唯一の生き残りである男性は、俊哉が院長をしている病院に入院中だった。UDIラボを訪れた俊哉は「息子を解雇してほしい。死体にいくら金を使ってもろくなことにならない。私は父親として息子の将来に責任がある」と述べ、去っていく。久部は、3浪の末にやっと医大に合格したが、現在休学中だ。父親の言うがまま医大を目指してきたものの、何のために医師になるのかを見失い、しかしUDIラボでの経験を通して少しずつ自分の生きる目的や使命を見出してきている。父親からの自立という、大きなテーマがここに隠れている。
神倉の知られざる信念
ミコトたちが焼死体の身元特定に活用していたのが、歯の治療痕だ。歯科医師のカルテに歯形が残されていれば、照合して人物の特定ができる。その中で、神倉が、厚労省時代に全国の歯科カルテのデータベース化に取り組んでいたことが明かされる。2011年、東北で起きた大震災がその理由だという。津波で大量のカルテが流され、遺体の取り違えも起きた。神倉は当時、災害担当で現地に行っており、来る日も来る日も運ばれる遺体を見続けてきたという。
中堂からそのいきさつを聞いた久部が、UDIラボの身元不明遺骨安置所での「ご遺体を返す場所に返してあげることも法医学の仕事です」という神倉の言葉をどう受け止めたかはわからない。現在26歳の久部は、7年前の震災当時、浪人生だったはずだ。自分が勉強から逃げ、将来に迷っていた時期に、神倉は被災地で多くの遺体と向き合っていた……。神倉への尊敬と、自分への不甲斐なさが、久部の表情からは想像できる。とにかく、第8話は久部を演じる窪田正孝の繊細な表情の演技が際立ち、一挙手一投足、小さな声の震えや目つきまで、見逃すことができなかった。
ミコトらの奮闘の甲斐あり、焼死体の中で頭蓋骨が損傷しており、最後まで特定できなかった男・町田三郎の身元が判明した。しかし遺体を迎えに来た父親(木場勝己)は、家を飛び出してヤクザになり、前科を作ったまま火事に多くの人を巻き込んで死なせてしまった息子の遺体に「ろくでなし」と罵声を浴びせる。それを聞いていた久部も「ろくでなし」の息子に自分の姿を重ね、目を伏せる。
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