語っているようで沈黙を選んでいる 異色のヒロイン石原さとみ「アンナチュラル」第6話
「代弁」するが、「本音」を語らないミコト
「アンナチュラル」は、殺人事件の真相を解明することにより、人が人を殺す時の動機に大きなスポットが当たることになる。これは、通常の一話完結型の刑事ドラマやミステリーでも同様の構成であるが、今回はそうした殺人の動機が単なるお決まりのエンターテイメントに留まっておらず、きわめて現代的であり、社会的には看過されがちな部分に焦点を当てていると感じた。過去の性犯罪を償うことなく、のうのうと生きている(殺された男もいるわけだが)男たち、暗号通貨関連の問題……。どれも、現実世界のニュースとしてぼんやり既視感のあるトピックであり「で、結局悪いことしたやつらの末路ってどうなるの?」という社会の人々の不満を、露悪的な形に陥らずに解消しようとしているように思える。
終盤、警察から逃げ回ることに疲れた東海林が漏らす言葉が印象的だった。「悪いもん同士、好きに殺し合えばいいじゃん」と。それにミコトは、こう返答する。「どんなに最悪な人間でも、私たちじゃない、法律で裁く」のだと。
たとえば、東海林が容疑者として疑われた時に、露出の多いワンピースを着ていたことを刑事に訝しまれるようなシーンがあった。それにもミコトは「女性がどんな服を着ていようが、お酒を飲んで酔っぱらっていようが、合意のない性行為は犯罪です」と反論する。シーズン序盤では、このミコトの筋の通った爽快さが、気持ちのいいものだと私は思っていた。だが、今回東海林に「自分のこと何にも話さないし何にもわからない」と言われたように、ミコトは自分の過去を徹底的に隠している。正論をまとい、世の女性が言いたくても言えなかったことを代弁しているミコトであるが、彼女が本当に言いたいこと、わかってほしいことを、ミコトはまだ何一つ話していないのだ。
なぜ私がミコトのパーソナリティにこだわるか。それは彼女がたびたび口にする「法医学」「法律」という言葉にある。確かに、罪刑法定主義によって裁かれる日本の刑事罰の世界では、法律こそがすべての礎であり、罪を犯したものはその規定によって刑に処される。だが、かつての恋人を何者かに殺されたままやり場のない思いを抱えている中堂に象徴されるように「法律からはみ出した人の心理」を描くことも、フィクションであるドラマの重要な効能のはずだ。ミコトの「法律からはみ出した彼女自身の心理」はまだ、描かれていない。
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