憲法改正は現実味を帯びても… 誰も知らない「自衛隊」南スーダンPKOの最前線

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2カ月で8種類の予防接種

「私が現地に行った11月下旬は、すでにジュバ市内は落ち着いていましたね」

 こう語るのは、中力1佐から指揮を引き継いだ、第11次要員の指揮官・田中仁朗(よしろう)1等陸佐(47)である。

「南スーダンはとにかく暑い。直射日光に当たると痛いくらい。乾期だったので汗をかいてもすぐに乾く」

 日中、最も暑いときで気温は50度にもなる。瘴癘(しょうれい)の地だ。腸チフス、ポリオ、黄熱病、A型肝炎、狂犬病など、いくつもの予防接種を受け、さらに抗マラリア薬を服用して彼らは日本を発った。

 ちなみに初めてのPKO派遣は1992年9月、カンボジアだった。第1次派遣施設隊の部隊指揮官だった元陸将の渡邊隆氏(63)が25年前を振り返る。

「私の場合、派遣前の2カ月間で8種類の予防接種を2回ずつ受けました。陸上自衛隊は海外に出ることを想定していない。日本は島国ですから、我々はほとんど無菌状態で育っているようなものです。短期間にどっさり予防注射をしたので出国前に熱が出ました。当時は39歳と若かったから何とかなりましたけど」

 エイズやエボラ出血熱の恐怖とも隣り合わせだった南スーダンでの任務には国連施設の修理や外壁工事などもあるが、メインとなるのは道路補修。とくに第11次要員では、ジュバから西部のコダ、またジュバから北部のマンガラまで行く主要幹線道路の補修、ジュバ市内の道路整備を行った。補修した道路の長さは延べ約108キロ、実に東京駅から水戸駅の距離に匹敵する。

 たかが道路補修と侮るなかれ。南スーダンでは、物資が一度ジュバに集積され、各地へと輸送される。雨期で凹凸の激しくなった道路を補修するのは、UNMISSの中でも優先度が高いのだ。補修前は穴だらけで時速15キロでしか走れなかった道が“ごく普通”に走れるようになり、移動時間は大幅に短縮される。とくにジュバ市内の道路補修は市民の生活にも直接的に影響を与える。凹凸のある道路では車がすぐに壊れ修理代もバカにならない。現地の人々に大いに喜ばれた。

「南スーダンの人々の目線に立って、彼らと一緒に活動していこう。そんなポリシーで現場に出ていました。もちろん我々はUNMISSからの指示で動くわけですが、それに現地の人が協力してくれることもありました」(田中1佐)

(下)へつづく

笹幸恵(ささ・ゆきえ)
1974年生まれ。旧日本軍や自衛隊をテーマに取材するフリーランスのジャーナリスト。国内に留まらず、ガダルカナル島などかつての激戦地にも足を運ぶ。主な著作に『女ひとり玉砕の島を行く』『「白紙召集」で散る』がある。

週刊新潮 2018年2月8日号掲載

特別読物「憲法改正は現実味を帯びても…… 誰も知らない『自衛隊』南スーダンPKOの最前線――笹幸恵(ジャーナリスト)」より

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