長寿世界一のイタリア「チレント」地域 90代でも“オシャレ”、元気な100歳を目指す“街中運動”
「元気な100歳」を目指す「街中運動」
そんなアッチャローリから数キロに位置し、“地中海式ダイエット”の発信源であった人口200人ほどのピオッピ。その海辺近くで出会った、「ストレスがない」と語る3人の快活な90代の女性を既に紹介したが、そこから1、2分ほど坂を上ったところには、ニコラ・グイダさん(96)とイーダ・ノターロさん(100)の夫妻が暮らしていた。ともに家族に囲まれ、幸せそうな表情を浮かべる。
「若いころはドイツの鉄工所に勤めたりもしましたが、その後はここで、漁師や農夫をして暮らしてきました。漁師だけ、農夫だけではダメ。いろいろやることが大事だと思うんです」
そう語るのは夫のニコラさんだ。長年の食生活について尋ねると、
「主に食べてきたのは、まずいろんな野菜。エンダイブとかね。インゲンマメなどこの地域でとれる豆はよく食べるし、今日も食べましたよ。魚はカタクチイワシなど青魚を中心に、いろんな種類を食べます。肉は鶏肉が多いかな。ローズマリーで調理したりして。あと、猟をして野ウサギや狐も食べてきました。秋には山でとれるキノコも食べます。料理にも食卓にも、オリーブオイルは欠かせませんね。果物もよく食べ、水もたくさん飲みます」
それを聞いて、武庫川女子大国際健康開発研究所の家森幸男所長は、
「私がWHOと一緒に、世界の長寿地域六十数カ所で1万4000人の尿を調べた結果、日本人が長寿なのは、魚と大豆を食べているからでした。タウリンを含む魚やイソフラボンを含む大豆には心臓病を防ぐ効果がある。チレントにも同じことが言えそうです。また、赤身肉にくらべ鶏やウサギの白身肉は、動脈硬化の原因になる飽和脂肪酸が少ない。果物も世界中で長寿と関係し、悪玉コレステロールが酸化して血管に溜るのを防ぐ効果があります」
さて、若いときから、よく身体を動かしてきたというニコラさん。日ごろも、
「この辺りは坂道や階段ばかりですが、そういうところを歩きに歩いてきたからでしょうか。ずっと健康に暮らしています」
この話を聞いて、お茶の水健康長寿クリニックの白澤卓二院長が言う。
「海沿いの斜面に開けたアッチャローリやピオッピでは、必然的に坂や階段を上り下りします。日常生活に運動が組み込まれ、自然に筋トレができているのがこの地域の特徴で、バリアフリーにほど遠いことが、むしろ人々の健康に寄与しているのでしょう。実は長野県の平均寿命が長いことの一因も、斜面が多い地形にあるといわれている。私も患者さんには“階段と坂道は寝たきり予防ジム”と伝えています」
この地域にはニコラさん同様、農業や漁業に従事してきた人が多い。それについて白澤院長の指摘は、
「農業や漁業は仕事自体が運動みたいなものであるし、定年がないので生涯現役でいられる。それに家庭菜園をもつ人が多いということは、農業以外の仕事の人も十分な運動量を確保していると考えられます」
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