長寿世界一のイタリア「チレント」地域 現地取材で秘密に迫る

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100人に1人が百寿者だった

 そう聞けば、長寿の実状と秘訣を探るべく取材に赴かない手はない。ナポリから列車で行けるのは途中までで、30キロほどはレンタカーに頼らざるをえない。だが、山が迫った海沿いの道は、次々と絶景があらわれ、真冬だというのに黄色やオレンジの花が咲き乱れている。高齢者にやさしい環境には違いなさそうだ。

 海岸に突きだした「メディテッラーネオ(地中海)」というレストランで、オーナー女性に地域の食生活について尋ねてみた。

「マイワシやカタクチイワシ、それにタチウオなんかよく食べるわ。家庭菜園で採れたキャベツやブロッコリー、トマトとかの野菜も。どの料理もオリーブオイルはたっぷりかけるの。ワインはアリアーニコという品種の赤が多いです。あと魚にはオレガノ、肉にはローズマリーと、ハーブも料理には欠かさないわね」

 欧米人の食生活に連想される肉や乳製品は、あまり食卓に上らないらしい。

 とまれ、アッチャローリは自治体としてはポッリカ村に属すので、山腹にある村役場を訪ねると、村長は不在。かわりに地区の高齢者事情に詳しい女性を紹介され、村長には翌日会うことになった。しかし、前後するが、まずステファノ・ピサーニ村長の話から紹介したい。会うなり、

「世界中から取材にきます。最近もアメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、ポーランド、欧米以外でもロシア、カザフスタン、アルゼンチン、ブラジル……。中東諸国からもきました」

 と話しはじめた。

「ポッリカ村は人口約1500人。100歳以上が何人いるかは数えていませんが、90歳以上は人口の1割程度います。平均寿命も高く、この村を含むチレント地方の平均寿命は男女合わせて87歳。女性が92歳で男性が85歳ほどで、イタリアや日本の平均より3、4歳は高いと思います」

 2016年からチレントの長寿について研究を続けるローマ・サピエンツァ大学医学部のサルヴァトーレ・ディ・ソンマ教授は、

「この地域は人口の2、3%が100歳を超えていると思われます」

 と言うが、多くの関係者は、チレントの百寿者は人口約7万人のうち数百人だろう、と証言する。それでも、およそ100人に1人、島根県の10倍である。長寿の原因は村長によれば、

「まずストレスがない環境でしょう。寒すぎず暑すぎず、村中が家族のようで、お年寄りが配偶者を亡くしても、バールなどに行けば会話を楽しめるので寂しくない。このことは大事です。食事は地産地消。青魚や野菜など地域で採れたものを食べています。また、みなさんよく歩きますね」

 そして、こう強調する。

「この地域のお年寄りは単に長寿なのではなく、みな元気で長生き。寝たきりの人など、まずいません」

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