氷のベールに包まれた金メダルへの大技ジャンプ! 「羽生結弦」リハビリ内幕90日

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足首を捻ったりすれば…

 一体、どのようなリハビリ生活だったのか。

 スポーツ医学に詳しい、帝京科学大学の渡會(わたらい)公治特任教授に聞くと、

「まず、右足関節外側靭帯損傷とは平たく言えば、捻挫です。踝(くるぶし)の外側には3つの靭帯があり、そのうちのどれか、もしくは複数を痛めたということ。程度にもよりますが、日常生活に支障がないレベルにはほぼ3〜4週間で回復します。でも、フィギュア競技ができるようになるまでには2〜3カ月は必要です」

 つまり、平昌に間に合うかどうか、ギリギリのタイミングでの負傷だったのだ。

「そのケガを負った場合、どのようにリハビリを行っていくかですが、初めの最低1週間は絶対安静。その後、約3週間かけて、痛めた靭帯に力がかからないようにしながら荷重運動をしていきます。例えば、ギプスやブレースと呼ばれる装具を足首に付け、スクワット運動を行ったりする。さらに、羽生さんは平昌が近いので、筋力のほかに持久力も保たねばなりません。そのためには、ランニングよりも、靭帯への負荷が少ない水泳やエアロバイクを取り入れたはずです」(同)

 さらに、次の1カ月からは、ギプスやブレースをテーピングに換え、従来のスケートの練習を徐々に始めていったのではないかという。

「昨年12月下旬に、羽生さんはスケートリンクに立ったものの、練習再開には至っていないと明かしていました。最初の段階として、身体を氷の感触に慣らすことから始めたわけです。それから、ようやく1月上旬になって、本格的な練習を再開できるようになったのです」(同)

 とはいえ、羽生の靭帯はいまも完全な状態ではない。

「万一、ジャンプの着地に失敗して足首を捻ったりすれば、弱っている靭帯にダメージを与え、演技が再度できなくなる恐れがある。だからこそ、団体戦を回避し、ぶっつけ本番で個人戦に挑戦することにしたのではないでしょうか」(同)

 だとすれば、フィギュアの絶対王者は、平昌に出場するだけで精一杯ということなのか。

 しかし、ある報道関係者はこう証言するのだ。

「負傷したばかりのときは、平昌に行けるかどうかわからないくらいの状態でした。でも、驚異的な回復力とリハビリのおかげで、本来のコンディションを取り戻しつつある。団体戦に出ないと決めたことで、金メダルは絶望という見立てが目立つようになりました。しかし、実際はそんなことはなくて、絶対王者の座に再び君臨するだけの手ごたえは得ています」

 では、平昌で金メダルを獲得するには、なにが必要なのか。

 元プロスケーターの佐野稔氏が解説する。

「羽生くんが、2015年のGPファイナルで330・43という世界最高得点を叩き出したとき、トゥーループとサルコーの2種類の4回転しか跳んでいませんでした。ですが、いまは“4回転時代”になり、2種類では平昌で勝ち上がれる保証はありません」

 例えば、ネイサン・チェンは、トゥーループ、サルコーのほか、より難易度の高くなるループ、フリップ、ルッツも試合で成功させているという。

「ですから、羽生くんも平昌でトゥーループ、サルコーにループを加えた3種類の4回転ジャンプは跳ばなければなりません。でも、ケガの原因となったルッツはプログラム構成に組み込まなくても互角に渡り合える。そもそも、羽生くんは、スピンやステップなどの完成度が高く、表現力も優れているため、ジャンプ以外のところでも、かなりの高得点が見込めるのです」(同)

 しかも、ケガの具合を伏せ続け、ライバル選手を疑心暗鬼に陥れる心理作戦も加わった。66年ぶりの2連覇達成の公算は大か。

週刊新潮 2018年2月15日号掲載

特集「『平昌五輪』雪原のROE交戦規定」より

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