近藤誠の“「風疹」「B型肝炎」「HPV」ワクチン否定”を信じるな
傷害罪や殺人罪に相当?
最後に取り上げるのは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンです。
〈HPVワクチンで子宮頸がんは防げない〉
HPV関連疾患で代表的なのは女性の子宮頸がんですが、男性の尖圭(せんけい)コンジローマ、最近では咽頭がんなども増えています。中でも、“マザーキラー”と呼ばれる子宮頸がんは、ワクチンでウイルスの感染を防御できれば、子宮や命を奪われることはありません。これは、B型肝炎ワクチンで感染を防げれば、B型肝炎由来の肝がんにならなくて済むのと同じ理屈です。
その子宮頸がん、国内では現在、年間約1万人の女性が罹患し、約2700人が死亡しています。
そもそも、性交渉でHPVに感染し、慢性化したからといって、すぐに死亡リスクのある浸潤がんへと変化してしまうわけではありません。手前で高度異形成、上皮内がんといわれる過程があり、それらは「前がん病変(CIN3)」と称されています。適切な治療を受けずに長年放置されると、約30〜40%が浸潤がんに移行するという報告もある。しかし、“がんもどき”と“本物のがん”の2つしかないという二元論でしか、がんを語ろうとしない近藤氏は、CIN3から浸潤がんへの連続性を頑なに認めようとはしません。それ故に、子宮頸がん検診も無意味であると吹聴する始末。
一方、若年女性を対象としたHPVワクチン接種によって、数年ほどの観察期間とはいえ前がん病変の発生を90%以上抑える効果が臨床試験で証明されています。この事実に対して近藤氏は、
〈CIN3の出現頻度を減らしても、浸潤した子宮頸がんの発生を防げたというケースは、世界に一例もない〉
と断じるのですが、これは詭弁に他なりません。がん発生の有無まで観察し続けるのに10年単位の長期間を要します。そして、当然ながら前がん病変とわかった段階で治療を受けるケースが多いため、倫理的な側面を考えれば、がん発生の差まで示すデータはなかなか出せるものではない。良識ある読者であれば、前がん病変の発生を阻止できるなら、その先にある浸潤がんも防げることは、容易に察しがつくはずです。
日本では他の先進諸国に遅れを取る恰好で13年4月、小学校6年生〜高校1年生の女子を対象として、HPVワクチン定期接種が開始されました。しかし、接種後に「身体の広範な痛み」「倦怠感」「しびれなどの神経症状」といった重篤症状が報告されたことから、その2カ月後に、厚労省からワクチン接種の積極的な勧奨が一時中止とされました。昨年4月まで報告された副反応の発生頻度は、医師らが判断した重篤なもので10万人あたり51人。そして、現在もなお再開のメドはたっていません。
WHOや各国は、科学的根拠に基づきながら器質的疾患とHPVワクチンとの因果関係を否定しています。最近の全国疫学調査(代表研究者・祖父江友孝大阪大学教授)では、ワクチン接種歴のない若年者にも同様な症状が一定数存在することが報告されています。
しかし、ワクチン接種を契機に少女たちに原因不明な症状が出現し、今もなお苦しんでいる事実は重く受け止めなければいけません。とはいえ、蓋然性の低いリスクに固執してワクチンの有効性そのものに疑義を呈するなどあまりに身勝手。結果、ワクチンの恩恵に与ることができるはずの多くの日本人女性が発がんリスクに晒され続けているのです。
著書のあとがきには、こう記されています。
〈もし将来にワクチン接種によって重篤な後遺症や死亡が生じたら、その発生を予見しながらワクチン接種体制をそのまま放置していたことは、間接的にせよ、傷害罪や殺人罪に相当する行為だと言えるのではないでしょうか〉
啖呵(たんか)ならぬこの台詞、そっくりそのまま近藤氏にお返ししたい。
がん放置理論を信じてしまったばかりに、後戻りのきかない深刻な事態に繋がってしまう不幸なケースが後を絶ちません。然るに、近藤氏はそのような方たちに対して先々の責任を負うことをしてこなかった。医師としての規範から外れた不誠実な営為は今回の著書にも現れています。同じ医師として理解に苦しむほかないのです。
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