虐待・不倫・ストーカー……炎上要素をありったけつめこんだテレ朝の戦略「明日の君がもっと好き」(TVふうーん録)

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 テレ朝ドラマの戦略はすごいなと思う。たいして面白くないドラマでも着々とシリーズ化。再放送の放映権込みでちゃんと契約して財産化。テレビしか観ていない年輩層をがっつり取り込む。が、ここ最近では、SNSでの話題性を最重視した一大コント劇場を定期的に制作している。

 物語の緻密さとか、人物設定の細やかさとか、社会問題をすくっての意識向上とか、インテリが好みそうな条件を一切無視。また、大手事務所のアイドル接待枠とは別で、とにかく馬鹿馬鹿しさをきっちり演じてくれる中堅俳優を配置。ネタになりそうな要素だけぶちこんで、悪意をドロドロと煮込む爆笑の恋愛モノだ。「不機嫌な果実」「奪い愛、冬」に続き、今回も大いに笑わせてくれるのが「明日の君がもっと好き」である。

 そもそも、テレ朝運営の宣伝サイト「テレ朝POST」での惹句(じゃっく)からして、プライドレスで笑える。「股間ヒザ蹴り! 美魔女拘束! 変態タクシー! 斜め上いく衝撃展開!!」と、AVタイトルかと思った。でもその通りの内容だった。嘘はついていない。ネットで話題を欲している民をターゲットに作られているようだ。

 主役は市原隼人。市原主演のラブストーリーというだけで軽く腹筋が痙攣。大衆演劇の一座に生まれるも、人付き合いが苦手で家を出る。そこで植木屋の柳葉敏郎に拾われて、植木職人に。蝶や虫、花を写真に撮るのが趣味。仕事着の半纏(はんてん)着たまま、ちょうちょを追いかける市原。和とヤンキーとロマンチックと小児性の融合に抱腹絶倒だ。いろいろと詰め込まれすぎだが、ひとり花鳥風月を背負って本人は真剣。そこが笑えるの。

 ヒロインは、華がないが実力はある伊藤歩。クズ男ばかりを引き寄せてしまう社長秘書の役だ。元彼(渡辺大)は自分の妹と結婚しちゃったゲス男だし、付き合っている彼(大沢健)は妻子持ちで性欲解消が目的と発覚し、乗ったタクシーの運転手(小松和重)には勘違い&ストーカーされるし、職場の若い男(母からの虐待で、熟女に暴力を振るう性癖がある白洲迅)からは猛烈アプローチされる。

 伊藤の妹は志田未来が演じる。かつて姉の男を奪ったものの、つまらない結婚生活に辟易(へきえき)。志田がガールズバーで出会うのが森川葵。柳葉の一人娘だが、自分をボクと呼ぶ性別違和である。

 全体的にセリフや設定がそこはかとなく古い。それ、今の20~30代は言わないなというネタも頻発。昭和の匂いが漂うのに、虐待・DV・不倫・ストーカー、そして入れりゃいいってもんじゃない性別違和も投入ね。

 そうそう、長年浮気し放題、現在は寝たきりの夫(品川徹)を介護中の三田佳子もいる。伊藤を育てた優しい祖母だが、熱い茶を夫の顔にかけるなどの虐待で、積年の恨みを晴らしている。

 ちなみにここで解説したのは初回の情報のみ。SNSで盛り上がる要素をギュウギュウ詰めでしょ。決して胸を焦がすラブストーリーではなく、ネット掲示板の様相だ。辟易するか、逆に中毒となるか。私は喜劇として、ぬるく受容します。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年2月8日号掲載

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