お笑い芸人「サンキュータツオ」が語る「私が『広辞苑』の項目執筆を依頼されたワケ」

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重なる偶然

 当時、女性誌「CLASSY.」(光文社)では、小説家の三浦しをんさん(41)が、辞書編纂の世界を描いた『舟を編む』を連載していた(09年11月号~11年7月号)。単行本が光文社より発売されたのが11年9月、「ウィークエンド・シャッフル」のオンエアは翌12年2月11日だった。

 おまけに司会の宇多丸さん(48)は、タツオさんにとっては中学・高校の先輩であり、学部は違うが同じ早大を卒業している。「辞書ブーム」前夜というタイミングと、人間関係の追い風を受けながら、放送当日を迎えた。

「出演に際しては、国語辞典の誤解を払拭することを課題の1つにしていました。“正しい日本語”というのは、間違った観念です。たとえば、『美味しいです』や『嬉しいです』は100年前なら誤用に近い扱いで、『美味しゅうございます』か『嬉しゅうございます』が正しいとされていました。でも今は違います。だから“ら抜き言葉”も、ひょっとすると100年後には“正しい日本語”かもしれないのです」

“正しい日本語”という1種類の言語しか存在しないのなら、国語辞典も1冊でいい。だが日本語は極めて多様であり、それをどう切り取るかによって、それぞれの辞典は全く異なってくる。ここに様々な国語辞典が編纂される必然性と必要性がある――。タツオさんは番組で、国語辞典の世界がどれだけ奥深いものなのか丁寧に説明した。

 具体例としてタツオさんは森田良行・著『基礎日本語辞典』(89年刊/角川書店)の素晴らしさにも力を込めた。この辞典は「日本語教師のためのバイブル」の異名を持つ。タツオさんは日本語教育にも関わっており、その威力は現場で熟知していた。

「この辞典が『今度』と『次』や、『おおよそ』と『だいたい』の違いを詳細に説明してくれていたことに、どれだけ助けられたか分かりません。日本人でも説明できない類語の意味の違い、ニュアンスの違いを、解き明かしてくれます。その番組を偶然、当時の角川学芸出版の編集者が聴いてくれていて、『自分が勤める会社は、そんな立派な辞典を出していたのか』と驚いたそうなんです(笑)」

 さらに偶然は重なる。『舟を編む』の著者・三浦しをんさんも番組を聴いていた。2人は76年生まれで、しかも同じ95年に早大一文に入学。面識はなかったが、共通の友人はいた。『舟を編む』は12年に本屋大賞を受賞し、13年には映画化される。2人は雑誌で辞書に関する対談を行ったり、イベントに出席したりする。

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