石原さとみ主演「アンナチュラル」から読み解く“女性像”と“生きる力”の鍵とは
“食事”という大きなテーマ
続く第2話では、ミコトが集団練炭自殺の謎を解く様子が描かれた。1話ラストで明かされた、ミコトが実は、一酸化炭素中毒による一家無理心中の生き残りであり、母(薬師丸ひろ子)らとは血のつながりがないという過去。それゆえ彼女は「不自然な死」を許さない。2話にして、ミコトの過去にダブる設定を持ってきた野木のカードの切りっぷりの大胆さに、舌を巻いた。
そしてもうひとつ、本作を語る上で欠かせないのが「食事」というテーマだ。ラボのロッカールームでどんぶりをかきこむミコト。調査がうまくいかず行き詰まっている時に久部にバナナを差し出すミコト。彼女のバイタリティは「食事」に象徴されている。
第2話で自殺志願者を募集していたネット住民「ユキ」の存在を突き止めるキッカケとなったのも、被害者たちが最後に食べたご当地食材、鹿肉のおにぎりだった。調査のために久部とともに向かった現場で、「ユキ」に冷凍車に閉じ込められ、池に落とされて浸水の恐怖にさらされるミコト。そんな最中「巻き込んでごめんね。明日の夜空いてる? 美味しいもの食べにいこう」とミコトは久部に声をかける。「明日何食べよっかなー」と、死の淵にありながら未来への希望を失わないミコトに久部が「チゲ」と一言答えた瞬間は、ミコトの生きる気力に久部がおずおずと乗った名場面の瞬間だった。ちなみにここでも久部は、息を吹きかけてミコトの手を温めるなど、華奢な外見との偉大なギャップを発揮している。憎い……。
中堂の助けにより、2人は一命を取り留め、集団自殺に見せかけて連続殺人をおこなっていた男の事件は解決した。「法医学は未来のための仕事」というミコトの信念は、正直に言えばこれまでの医療・法医学ドラマでも既視感のあるものだろう。しかしこのドラマが新しいのは、それに加えて「絶望してる暇あったら美味いもの食べて寝るかな!」というポジティブな台詞をミコトに言わせるところであり、もう食事をすることのない遺体とともに仕事をする彼らが、日々もりもり食べながら生きている人間である、ということを強く確認させてくれるところなのだ。
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