知られざるキーワードは“無尽”!? 最強の健康長寿「山梨県」のDNA

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知られざる健康キーワード「無尽」

「近所、同級生、仕事と、お金を集めて幹事の家に集まって食事するタイプの無尽3つに入っていて、会費はそれぞれ3000円、5000円、1万円。無尽はやめてしまったけど、いまも週1回、川柳の集まりに参加しています。妻も嫁入り前の職場と近所の無尽に入っていました。嫁姑の話でもしていたのでしょう」

 そう話すのは市川三郷町の男性(87)。甲州市勝沼の74歳の男性はいまも、

「地区のもの、同級生の大きい規模のもの、小さい規模のもの、地区の役員OB会、会社関係、仕事関係の異業種と、6つの無尽に入っています。年齢が近い人の集まりが多いですね。会費は5000円か1万円で、5000円の無尽は毎月会うほか、積み立てて年に1度納涼会を行うくらい。1万円の無尽だと5000円を飲み代にし、残りは積み立てれば年6万円になるので、それでみんなで旅行に行くんです。だれかが抜けるときは、積立金を人数で割った金額を返します」

 トラブルなど起きたりしないのだろうか。

「起きませんね。気の合う者同士で立ち上げて、新規の人を入れる際は、簡単な会議を開き、みんながいいと言えば入れるんです。ストレスがないから続くのではないでしょうか」

 たしかに山縣教授も、

「選挙の集票マシンとして使われる“選挙無尽”など、自分が楽しめない無尽に参加している高齢者は、元気で長生きできる確率が下がりますね」

 と言う。ほうとう屋の20代のアルバイト女性が、

「親世代は寿司屋や割烹などでよくやってます」

 と語るのは、ノーストレスの無尽だろう。ワイン酒場で働く30代女性は、

「同級生や周囲も、野球や同級生、地域などの無尽に入っている人が多い。20代の女性は“女子会”と呼んだりしていますけど」

 高齢者にかぎらず、山梨に根差した不思議な郷土文化なのだ。身延町の居酒屋で開催中の無尽も覗いた。

「僕らは57歳で、小中学校の同級生。今日の参加者は6人。2カ月に1回くらい集まって、今日は6時半から飲んでます。参加者が男だけなら女の話とか。女性もいたら生活のこと、子供や孫のこと、 あと昔話ね。昔の話をすると認知症予防にいいっていうよね」

 そう言い、日付が変わるまで賑やかに過ごしていた。

 交通の便が悪い地区では、無尽の存在が命綱になっている。たとえば県南西端にある人口1000人余りの早川町について、保健師を務めてきた町福祉保健課長の深澤幸枝さんに聞いた。

「無尽や地域のサロンなどに、人が集まるタイミングで保健師が出向き、世間話をしながら1時間ほど、健康相談を受けたり、血圧を測ったりします。住民の方は無尽やサロンというコミュニケーションの場を持ちながら、同時に健康管理に努めることもでき、健康寿命を伸ばすことにつながっているかもしれません」

 あらためて保健師とはなにか確認しておく。南アルプス市保健福祉部の保健師、長谷部裕子さんの話。

「主に地区担当と業務担当に分かれ、前者は担当地区の健康増進に努めて、後者は健診を実施したりします。山梨ではずっと地区担当業務を大切にし、それは保健師の数が多いので可能です。また住民主体の健康づくりにも力を入れ、たとえば山梨発祥の愛育連合会のメンバーが生活者の目で地域を見て、“最近、この地域で認知症が多い”などの情報を保健師にくれ、それを受け、私たちは地域の声かけを強化するのです」

 無尽を行うのも困難な過疎地もあるが、北杜市の老人クラブ会長、小林忠雄さん(78)が言う。

「北杜市は人口の37%が65歳以上で、旧須玉町の増富地区は山手線内側の1・5倍ほどの面積に445人しか住んでいない。移動手段がなくて集まれないのです。そこで増富温泉と協力して、元気会を作りました。月1回、2000円で湯に集まって、食事をし、体操や健康チェックを行い音楽レクリエーション、輪投げ、誕生日会なども楽しみます。家にこもらず外に出ることが、健康長寿につながると思いますので」

 高齢者が社会参加する道が、隅々にまで用意されているのだ。

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