蛯原英里さんも悩んだ「産後うつ」 不安や孤独に苦しむ新米ママの救いとは――
2017年に国内で生まれた日本人の赤ちゃんは94万1千人だった(厚生労働省2017年人口動態統計より)。それと同じ数だけ2017年に出産した母親がいる。
2018年1月4日、読売新聞朝刊の連載「医療ルネサンス」に「子どもを守る 親の思い」というシリーズ(全5回)が掲載された。第1回に登場したのはモデルの蛯原友里さんの双子の妹で、ベビーマッサージ教室を主宰する蛯原英里さん(38)。2014年8月に女児を出産した彼女は、もともと看護師として新生児集中治療室(NICU)に勤務していた経験もあり、初めての育児に特段の不安はなかったという。
ところが産後1週間で自宅に戻ると母乳育児の壁は想像以上に高かった、と蛯原さんは振り返る。NICU勤務時に、母親が絞って届けてくれた母乳を赤ちゃんにあげていた経験もあり、「何が何でも母乳」と必死になって授乳を続けた蛯原さんの寝不足と疲労はピークに達していた。産後2週間目に受けた母乳外来では娘の体重が100グラムしか増えておらず、助産師のアドバイスで少し粉ミルクを足すことになった。その晩、急に涙があふれ「満足に母乳が出ない駄目なママ」と自分を責めたという蛯原さん。夫(42)が「そんなことはない」と慰めても耳に入らなかったという。(以上、読売新聞より抜粋、引用。)
蛯原さんのように、出産後に強い不安や孤独を感じる、いわゆる「産後うつ」に悩まされる母親は少なくない。厚生労働省の2015年度の調査では、出産前後の妊産婦の4%にあたる約4万人が精神的な不安定さを抱えているとの推計も出ている。
実は、この症状は科学的に見ても「当たり前」のこと。妊娠中から分泌量がどんどん増え続ける胎児を育むために必要なホルモン、エストロゲンが、出産を機に急激に減少することで、脳の神経細胞の働き方が変わり、強い不安や孤独を感じるようになるのである。
同じく産後うつを体験した漫画家・はるな檸檬さんは自身の妊娠出産体験を描いた漫画『れもん、うむもん!―そして、ママになる―』で、思うようにならない自分の体や、授乳の辛さ、初めて命を預かることの不安を抱えて追い詰められていった当時のことを振り返っている。
蛯原さんは、1カ月検診で地元の小児科の先生に言われた「がんばっていますね。1滴でも立派な母乳育児ですよ」という温かい言葉に、「病んでいた心が軽くなった」と語る。産後に辛い思いを抱える母親にとって何より必要なのは、夫はもちろん、周囲の人の「産後の母親が不安定なのは、その人の人間性とはなんの関係もなく、ホルモンバランスが崩れているせいである」という正しい理解。それこそが、母親の気持ちを救うのではないだろうか。