次期米大統領の期待高まる「オプラ・ウィンフリー」のスピーチにつながる“19世紀の奴隷少女”が告発した 「Me too」

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 アカデミー賞の前哨戦として知られるゴールデン・グローブ賞の授賞式が1月7日(現地時間)に開催され、エンターテインメント界の貢献者を讃えるセシル・B・デミル賞が、オプラ・ウィンフリーに贈られた。彼女は米国の著名黒人司会者、女優、フィランソロピストで、民間人に対する最高栄誉である大統領自由勲章の受章者でもある。

 マルチメディア制作会社をはじめ、自身の名を冠するケーブルテレビチャンネル、ラジオチャンネル、雑誌、ブッククラブ等を有するウィンフリーは、日本の芸能人では考えられないほどの影響力を持っている。2008年、オバマ前大統領がヒラリー・クリントンを制して民主党の大統領候補となり、のちに大統領に選出された原動力の一つに、ウィンフリーによる支持表明があったことはよく知られている。

 オプラ・ウィンフリーは受賞スピーチで、自身の輝かしい功績には一切触れず、半世紀前の自分と今起こりつつある社会変貌についての期待を語った。1964年、未婚だった母の貧しい家のリノリウムの床に座り、黒人俳優として初めてアカデミー賞を受賞したシドニー・ポワティエの姿をテレビで観て、目を丸くした少女時代の記憶――黒人が世間からこのような称賛を受けることがあるのだ――、そして後年セシル・B・デミル賞を贈られたポワティエと同じく、黒人女性としては初めて同賞を受賞した自分を、今テレビで観ている少女がいるのだろうと。

 そして「#Me too」というハッシュタグで世界中に広がった、現代社会の深刻な性的虐待問題に触れ、個人が自分の真実のストーリーを語ることが、社会を変える強力なツールであると述べ、1944年に白人による集団暴行を告発した黒人女性の例を挙げた。

 それに遡ること19世紀、性的虐待を自らの真実のストーリーで告発した、1人の偉大な黒人少女がいた。1813年、米国南部ノースカロライナ州に奴隷として生まれたハリエット・アン・ジェイコブズである。彼女は自身が経験した白人による性的虐待、「もの」として家族バラバラに売られる奴隷の運命、その人格破壊の深さと苦しみの実態を伝えるために、生涯でたった1冊、偽名で本を書いた(『ある奴隷少女に起こった出来事』新潮文庫)。奴隷が書いたとは思えない知的な文体で綴られた同書は、白人による作り話と誤認され、長年アメリカでも忘れ去られていた。しかし、近年その驚くべき内容が事実であると証明されると、米国で一躍ベストセラーとなった数奇な作品である。

 日本でも昨年7月の文庫化以降、少女の真摯な告白は広く読者の共感を呼び、同ジャンルの書籍としては異例のスピードで版を重ねている。約200年前に生まれた勇敢な少女が記した元祖「Me too」とも言える同作は、21世紀になっても同じ問題を抱える社会に対し、その問題の根深さを示すと共に、我々が向かうべき方向性を示唆する作品と言えるだろう。

 同書の日本での人気は、フォーブス誌(米)、ル・モンド紙(仏)、インディペンデント紙(英)等、海外主要メディアでも大きく取り上げられている。記事は、日本が世界でも著しく男女平等が進んでいないという不名誉な評価を得ている事実(世界経済フォーラムが発表した、世界各国の男女平等の度合いを示した2017年版「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は調査対象144カ国のうち、114位)、または伊藤詩織氏の告発等と絡め、157年前に声を上げた、アメリカの奴隷だった一少女の個人的ストーリーが、今日本で広く読まれている背景と共に、日本のこれからに対する期待を報じるものだった。

 オプラ・ウィンフリーは授賞式で、声を上げたが正しい裁きを得られなかった、ジェイコブズのような無名の女性たちのこれまでの不屈の勇気を讃えた。自身も性的虐待の犠牲者であるウィンフリーは、そんな時代が今ようやく終わろうとしていること(「タイムズ・アップ」)を、性的虐待被害者の法的救済等を目的に発足した同名の活動になぞらえて 語り、授賞式会場の黒衣のハリウッド女優一同から、涙のスタンディングオベーションを受けた。そして、テレビで彼女を観ている少女たちに対し、新しい時代(誰も「Me too」という必要のない時代)の到来を告げ、スピーチを終えた。

 元祖「Me too」の奴隷少女の告発から約160年、同じく人種・女性差別に打ち勝った南部黒人女性であるオプラ・ウィンフリーの支持を得て、顕在化した性的虐待の撲滅に向け米国社会は新しい段階に入った。

デイリー新潮編集部

2018年1月24日掲載

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