あなたはまだ「滋賀県」を知らない 平均寿命でトップに躍進、鮒ずしだけではない琵琶湖の賜物
日本最古の発酵食品「鮒ずし」
スポーツには後編で触れる。医食同源という言葉もあるから、まずは食生活に長寿の秘密を探ろう。滋賀の名物といえば鮒ずし。大津市で鮒ずしを商う至誠庵の井上裕子代表(55)は、鮒ずしの特徴を、
「平安中期の『延喜式』にも出てくる1000年以上の歴史がある食べ物で、寿司の原型ともいわれます」
と説いて、続ける。
「鮒ずしは乳酸菌SU-6が豊富で、腸内環境を整えて免疫力を高める効果があります。昔から調子が悪いと食べる習慣があるのはこのためで、“体調を崩しちゃって”と来店しはったお客さんは、食べると回復しはるって。産後の女性も見えますね。鮒ずしを食べると母乳がよく出るというからです。骨ごと漬けるのでカルシウムが豊富で、ビタミンやミネラルもたくさん含まれて、美肌効果も」
そう語る井上さんの肌は、すっぴんなのにもちもちして30代のようだ。また井上さんの90歳の義母は、
「毎日1時間かけて店まで歩いてきて接客しています。認知症と無縁で身体に悪いところがないのは鮒ずしのおかげだと思う。鮒ずしはアンジオテンシン変換酵素の働きを抑え、血圧を下げる効果もあるそうです」
秋津医院の秋津壽男院長は、鮒ずしをこう語る。
「鮒に詰めた塩と米だけで発酵させて作る、日本最古の発酵食品と呼べるもので、酵母菌と乳酸菌が非常に豊富。しかも日本人が昔から馴染んでいるタイプの菌なので、日本人の腸に合っています。腸内細菌は民族の食習慣とともに育つものだからで、日本人がブルガリアのヨーグルトを急に食べはじめても、腸が驚いてしまうことがあります」
もっとも、高級品なので毎日食べられる人は多くないようだが、
「滋賀県民が、鮒ずしの切り落としなどをお茶漬けやお吸い物に入れて食べているという事実がある」(同)
東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏(免疫学)が加えて言うには、
「高齢者が弱ってしまうのは多くの場合、タンパク質が不足しているため。鮒ずしは乳酸菌や善玉菌が多いうえ、年をとると不足しがちなタンパク質も賄える健康食品なんです」
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